Das Otterhaus 【カワウソ舎】

生きることは、見ること。写真作家・佐藤淳一が動物園水族館と生息地を訪ねます。カワウソがいてもいなくてもひたすら訪ねます。

わたしがカワウソに対してできることと、その限界

OtterSeal480

今回は、あえて写真なしで書いてみよう。

先日のカワウソ講座の後、熊谷さとしさんとブログ上で何度かやりとりをさせてもらった。まずその話の流れを踏まえてほしいので、3記事分、リンクしておくね。ちゃんとコメント部分まではしょらず読むように。コメントのとこが大事なのだ。


熊谷さとしのフィールドニュース!!:市川動植物園コツメカワウソ講演会

熊谷さとしのフィールドニュース!!:贔屓の引き倒し

熊谷さとしのフィールドニュース!!:コツメカワウソ追記


前回の記事にわたしが1本目へのリンクを追記したため、ここの読者の方の中にもすでに一部を読まれた方もいらっしゃることだろう。くまがいさんのブログを初めて読まれた方は、ちょっとびっくりしたかもしれんなあw。しかしああいう物言いは、実はくまがいさんの「スタイル」なのであって、表層のレトリックに惑わされず、その奥にある彼の真意こそを読み取らねばならない。

実は3本目でわかりやすく書いてくれているので、結論はもうはっきりしてるんだよね。コツメカワウソはかわいいので、このままではエリマキトカゲやアライグマの二の舞いになるのではないか、ということを心配されているわけだ。

現実に、日本(のペットショップか)向けに密輸された個体が日本の空港で発見されたり、あるいは現地で摘発されたり、という話がしばしばある。しばしばある、っていうそれらは失敗例なのであって、件数的にはもう、氷山の一角だろう。つまり成功している密輸がかなりあると見なければならない。要するに、


テレビ等でコツメが紹介されて人気が出る
 ↓
ペットとして飼いたい人間が増える
 ↓
売れる動物とみなされて扱う業者が増えるが、国内ブリーディングが確立している愛玩動物ではないし、CITESのAppendix II(俗に言うワシントン条約の付属書II)だから実は商業取引は可能だが、今どき原産国の輸出許可なんか出ない
 ↓
密猟〜密輸


というよろしくない回路が出来上がっているので、密猟〜密輸を止めるためには、カワウソをペットとしてほしい、という願望が形成される根源の部分を何とかしなければいけない、というロジックが成り立つ。たとえばカワウソスさんという方が以前からネット上で「カワウソはペットではない」由のキャンペーン的な活動をされていたりするけど、まあたしかにそういう心情的に訴えるような持って行き方もあるだろう。

そしてこの件に対して、われらがくまがいさんは「ノーテンキなファン」を相手にする困難さを説いていらっしゃるわけだ。30年の経験上、そういう層を相手にするのはあきらめた、という彼の言葉の重さを一度は受け止める必要はある。




・・・




ではそれで、わたしはどうするのか。

まず先日のカワウソ講座で配布した挨拶文を、ここに上げておく。


カワウソフレンズという団体は、数年前にとある動物園の行事で、わたしたちが展示販売ブースを出すためにその場で作った「コツメフレンズ」というグループが元になっています。この経緯が示す通り、基本的にはコツメカワウソに対する興味を持つ何人かがゆるく集まって活動をしてきたのですが、このたびいよいよ、本格的な講座を催すところまで来てしまいました。これにはわけがあります。ニホンカワウソをはじめとするLutra属カワウソは古くからよく研究の対象となり、文献や論文がたくさん書かれているのに対し、われわれが日本の動物園・水族館で親しんでいるコツメカワウソは、これまでほとんどと言っていいほど、研究や調査がなされていません。この不均衡な状態にはさまざまな理由があるようですが、とても心配なことです。カワウソフレンズの目下の課題は、まずコツメカワウソのことをもっと知り、そしてもっと考える、ということにあるのです。



「もっと知り、もっと考える」で止まっている。実に奥ゆかしいではないかw。密猟を止めろ!とか、生息地保全のために金を集めよう!とか、そういう具体性を伴うアクションは一切、書かれていないのだからね。それ何で?と思われるかもしれない。

まず、わたしの基本的な立場が、野生動物保護活動家ではなく、写真家であるということがある。写真家は、写真家の仕事を踏み外したところで、ろくなことにはならないだろうと思ってる。もちろん、今からどんなに努力したところで、クラウス・ロイター(ドイツのカワウソセンターを設立したひと・故人)やポール・ヨークソン(IOSFを運営するひと)といった人たちのような、専門的なカワウソ保護の仕事ができるわけもない。いや、このふたりはちょっと例としては高級すぎか。

わたしが写真家としてこれまで活動してきた中で、基本中の基本として据えている東松照明(写真家・故人)の言葉がある。写真家は見ることがすべてだ云々(いま、手元に本がないので正確に参照できないごめん・・・)というものだけど、これはものすごく的確だ。写真家の仕事は、見ること(だけ)なのである。

もちろん、見ただけではな〜んにもしたことにならんので、それを静止画像に定着して、世間に公表するところまでがその具体的な仕事になるわけだけど。それで、写真家の根源的な使命ってのは「今まで見たことのないイメージを作りだすこと」なんだ。美しい写真とか、感動する写真とか、そんなのはもう、まったくどうでもよい。写真装置の進化と結託して、今までになかったイメージを産出すること。それこそが写真家の仕事である。それがカワウソとどんな関係があるのかって? それがあるんだよ〜!大ありだ。



どうしてここ10年ぐらいで、コツメカワウソの人気が出てきたのか。その大きな理由のひとつに、コツメの写真がちゃんと撮れるようになった、ということがあるはず。前にもどこかで書いたけど、カメラがフィルムからデジタルになってどんどん進化するうち、とりわけ高感度域での撮影可能性が著しく向上した。すると薄暗いところで高速で動き回る小さな動物、の撮影が可能になった。この進化の方向性がまさにコツメカワウソの姿をとらえるための要件と一致してしまったのだと、わたしは考えている。フィルム時代でははっきりととらえられなかった仕草や表情が、デジタルになってありありと、イメージ化できるようになった。

写真というのは、装置と撮影者の共犯関係、いや、べつに犯罪じゃないので共犯ってことはないんだけど、何と言うかコツメカワウソのクリアな画像が出回るようになった責任の何千分の一かは、わたしにもあるってことなのだ。だから自分の産出したコツメイメージが、もしさっき書いた密輸回路にちょっとでも加担するようなことになるとすれば、それを減ずるために、何かをしなければならない。さっき写真家は見るだけ、と書いたが、無責任であっていいという意味ではない。それは一言で言うと、かわいい画像を産出することに対する罪滅ぼし、ということになってしまうんだろうか。われながらずいぶん、びっくりする結論になったもんだと思う。



長くなってしまったので、そろそろまとめる。

もしわたしが活動家体質であれば、声高に保護の活動を始めたんだと思う。でも残念ながらそうじゃない。だから直接的なアクションには、はじめから限界があることを認める。だから、まずは「情報が流れる場」を作って行こうと思っている。くまがいさんの言う「ノーテンキなファン」を多少なりとも減らすことは、メディアの性質がかつてとは違う今だったら、ひょっとすると可能かもしれないからね。

というわけで、これを読まれたみなさん、わたしに、いやカワウソフレンズに協力してほしい。今回、カワウソ講座で見知ったことを、なるべく多くの人に伝えてほしいのだ。撮影禁止にしといて今さら何言ってんだw、と思われるかもしれないが、何もボルネオのどこにコツメのフン場がどれだけの密度で存在して・・・みたいな具体的な話を伝えてほしいわけじゃない。コツメカワウソって実は生態があまり知られてなくて、もっと研究が必要な動物なんだってことは、みなさん納得してもらえたと思うので、その記憶を、そして感じたことを、どんどん話してほしい!


Trackback

あり | 2013年03月02日 01:05
初めまして。いつも拝見しています。

たまたま見かけた「油壷にカワウソが来ます」というポスターに惹かれてカワウソを見に行って以来、カワウソに惹かれ、動物園に通うようになりました。
そして、日本中の動物園を見に行くようになりました。
そして今は、通勤途中の鳥など、気になるようになりました。(あの鳥はなんだろう、など)
カワウソのおかげで、日常に広がりができました。

単に、カワウソのおかげで自分の視野が変わっただけという、佐藤様の力にはなれないコメントで申し訳ないですが、大好きなカワウソが、いろいろな人の、何か良いきっかけになってほしいな、と思います。
jsato@otterhaus | 2013年03月02日 03:24
>ありさん、
コメントありがとうございます。
そう!カワウソがきっかけになって、動物がいろいろ気になりはじめる人たち、っているはずですよね。考えてみりゃわたしもそうだったw
そういう人たちがゆるく連携して、もっと「知ること」に意識が向かっていけば・・・それは最終的には何らかの力になるかもしれない。
古くさい声高なスローガンなどではなく、もっと柔らかい個人個人の納得の連鎖。そういう構造が変化の力を持つことを信じるとしましょう。

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Where captive otters live in Japan.

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Junichi SATO

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[佐藤淳一]1963年生まれ。土木構造物と動物という、かけ離れた領域を行き来するあまり類を見ない写真作家。上の写真はベルリン地下鉄の駅の壁に貼ってあった「ハンケンスビュッテルかわうそセンター」のポスターを撮ったもの(2005年)。意図せず自分も写り込んでしまったので、公式セルフポートレートに認定。光学的にカワウソと一体化しています。

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かわうそ3きょうだい そらをゆく (にじいろえほん)
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かわうそ3きょうだいのふゆのあさ (えほんひろば)
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かわうそ3きょうだい (えほんひろば)
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空がレースにみえるとき (ほるぷ海外秀作絵本)
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ぼく、およげないの
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ニホンカワウソ―絶滅に学ぶ保全生物学
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Otter (Animal)
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Otters: Ecology, Behaviour And Conservation (Oxford Biology)
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カワウソと暮らす (富山房百科文庫 (34))
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The Ring of Bright Water Trilogy: Ring of Bright Water, The Rocks Remain, Raven Seek Thy Brother
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椋鳩十全集〈20〉カワウソの海
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ガンバとカワウソの冒険 (岩波少年文庫)
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河合雅雄の動物記〈2〉カワウソ流氷の旅
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・・・
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