Das Otterhaus 【カワウソ舎】

生きることは、見ること。写真作家・佐藤淳一が動物園水族館と生息地を訪ねます。カワウソがいてもいなくてもひたすら訪ねます。

近況、というか動物園の展示と景観について考えていること

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去年、2013年はカワウソ写真展を3つも(ズーラシア展プルプル展海遊館展)やらせていただいて、それはもう大変な1年だったのだが、その後、佐藤は何もしてないんじゃないか、と勘ぐられるほどおとなしくしているので、ちょっといまの状態について書いておきたいと思う。



【その1・コツメカワウソの展示に関して】

実は、今年の2月15日(土)に多摩動物公園で『カワウソ講演会 - コツメカワウソのこれから』なる講演会で、「来園者の視点から見たコツメカワウソの飼育展示」と題してお話をさせていただく予定だった。これはわたしがこの約4年間の間に訪ね歩いた、日本の動物園水族館におけるコツメカワウソの飼育展示を分析、その傾向・特徴を抽出し、今後のコツメ展示の可能性について来園者/写真家の立場からちょっとした提言のようなものを行う、という画期的なものになるはずだった。なぜ画期的かというと、そんなしちめんどくさいことをした人が今までいなかったからです。


ここでいう「写真家の立場」とはどういうものか、については以前↓書きました。

Das Otterhaus 【カワウソ舎】 | わたしがカワウソに対してできることと、その限界


しかし、2月15日の天気ってみなさん、覚えてますか? そうです。あの2週連続で関東に大雪が降った土曜日です。みごとに中止になりましたよカワウソ講演会。したがって、この時点で世に問うはずだったわたしのコツメ展示分析、めでたくお蔵入りになってしまいました。

その後、3月に福岡市動物園でカワウソフレンズ主催の講演会を行いましたが、これは佐々木浩先生のタイ・マレーシアにおけるコツメを含む4種カワウソの糞DNA分析のお話をうかがうのが主な目的だったので、わたしは司会をさせていただいただけ。


Das Otterhaus 【カワウソ舎】 | 第2回カワウソ講座、終わりました


しかし、たまたまその打ち合わせの際に、佐々木先生からIUCN OSG(国際自然保護連合カワウソ専門家グループ)のInternational Otter Congress (国際カワウソ会議)が今年、ブラジルで行われることをお聞きしてしまった。以前から気になってた国際カワウソ会議ですが、別に生物学者じゃない人間も参加しているよ、という佐々木先生のお言葉に勇気を得て、ほぼ即決で参加することにしてしまう。


XII International Otter Congress of the IUCN OSG in Rio de Janeiro, Brazil


さてその国際カワウソ会議、正式には学会ではないのですが、運営はがっつり学会スタイルです。つまり単に行くだけではあまり意味がなく、何かを発表しなければならない。大学という場に身を置きながら、わたしはこれまで実技系・制作系という自覚があったため、学会活動なんてものからはこの10年以上、距離を置いてきました。それがまさか今になって学会発表を(しかもそれほど得意でもない英語で)する羽目になろうとは思わなかった。

別に写真展示でもいいよ、という話もあったのだけど、カワウソ専門の野生生物学者が仰山集まる場で飼育個体の写真を出したところでな〜んのインパクトもなかろう、という自主的判断で、小規模ながら研究発表のスタイルで参加することにした。日本の動物園水族館にはこれほど高密度に(飼育環境における個体密度ではなく、飼育施設の地域分布としての密度ね)コツメカワウソが飼育されている、ということは外国ではほとんど知られていないようなので、まずはその現状を世界のカワウソ界にちょっとでも知っていただくことができればよかろう、と。

そこで、ちょうどその大雪でお蔵入りになってた多摩での講演内容をインターナショナル仕様に改造し、「Exhibits of Asian small-clawed otter at zoos and aquariums in Japan」という少々あやしげな研究ができあがった。この発表に対する反応によって、これからわたしは何をどう動かしたらいいか、少しは見えてくるかと思われる(というか、そうなればいいな)。少なくとも日本の動物園水族館におけるカワウソの飼育展示が、国際的なフレームの中にとらえられるようにするにはどう動いたらいいのか、ヒントをつかみたい。なにしろ自分は飼育展示の当事者ではなく、何かを動かすにしてもそれは動物園水族館業界の外部から操作しなければいけないわけで、それを余計なことと思われないだけのロジックと立場みたいなものは、確保しなければいけないだろう。そしてそれは、けっこう難しい。

国際カワウソ会議はいよいよ来週、8月11日からリオデジャネイロで。うーん、これいったいどうなるんだろう(笑)。いまからドキドキものである。




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【その2・動物園の展示景観に関して】

このブログをPCでお読みいただいている方はお気付きと思うが、今年の初めから「Zoological Landscape」というタイトルで写真だけのブログを始めている(右上にリンクがあります)。ほぼ毎日、一日に1枚追加される写真の大きさは960ピクセル(ちょっと大きめ、ってことです)の横位置のみで、大きな画面で見ても動物が小さくぽちっと見えるだけの、よくわからない写真と思われているにちがいない。特にスマホでご覧の方には、日によっては本当に何が何だかわからない写真だろう。シリーズの趣旨としても「How we keep and watch wild animals in zoos and aquariums.」と出してあるだけで、今まで何も詳しい説明をしてこなかった。始めてから7か月たった。ぜんぜん飽きてないので、これはわたし的にはいよいよ本物だ。だったらそろそろ何を考えてこんな写真撮ってるのか、明らかにしておいたほうがよさそうだ。

わたしがカワウソやらキリンやらの写真を撮るようになる前、水門などの土木構造物を撮っていたことはご存知の方も多いと思う。今でもドボク時代の知人に会うと、何で動物撮ってんだ、とか、早く帰ってこい、とか言われる。これでは裏切り者、というか転向者である(笑)。わたしとしてはもちろん、裏切っても転向してもおらず、脳みそのなかではちゃんと連続した営為になっている。しかし外から見たら完全に切れているんだろうな、やっぱり。そのミッシングリンクをつなぐのが、「Zoological Landscape」なのかもしれない。



わたしが5年前、『ドボク・サミット』という本の中で論じたことの主要部分は、景観における土木構造物の新たな役割であった。現代のランドスケープデザインの価値観の中では、人工構造物はまず隠す要素であり、特に水門に限って言えば形状や色など、すべて目立たぬように処理するのがよろしいとされてきた。しかし、わたしはそれに異を唱えた。目立ってもいい、いやもっと目立ってくれい、と言っちゃったのである。河川のコンクリ三面貼りはやめて多自然工法にしてほしいけど、水門は隠さないでほしい、と。

何で目立った方がいいのか。それは水門が危険な存在だからである。もっと正確に言うと、水門が必要とされる土地は水害を被る高い可能性を持ったリスキーな土地だから、である。土地のリスクについてはわたしが云々するまでもないだろう。東日本大震災の津波被害や昨今の豪雨被害を目の当たりにしたとき、昔の被害を忘れていた、という感慨が漏れ聞こえてくることからも、そもそも人は土地の潜在リスクというものを忘れがちな存在であることは明らかだ。忘れないために、目立つという機能をそのためにこそ使うということ(立派な防潮堤があったがために避難が遅れた、という例もないわけではないが、それはまた人間心理の別の側面の発露かと思われる)。



話が大きくなってしまった。動物園の展示景観の問題に戻します。



その後、一見したときの方向性はかなり違うものの、動物園の展示景観においても同じ問題(人工物を隠すかどうか問題)があることを知ることになった。一方に動物展示において人工物を徹底的に隠し、動物と観覧者を風景に浸し込むランドスケープ・イマージョンというアメリカ生まれの手法。また一方に動物の行動を引き出すため人工物を使うことをいとわず、しかもそれをむき出しのまま提示する行動展示という日本生まれの手法。このふたつを極として、現代の動物園展示はそれぞれその中間のどこかにマッピングされると見ることもできる。

わたしが写真家として一貫して(意識せずとも)考えてきた問題は、景観における人工物の存在(価値/意義)であった。実はこの意識は何をモチーフに撮っていても、風景として扱っている限り、かならず通底している。社会資本をそのまま撮ったものがドボク写真だったわけだが、動物園展示という限定的な場では、この問題はわかりやすく二極モデル化されていたことは面白い。

ところで考えてみると、動物園自体もひとつの社会資本であり、その中で実現されている景観モデルというのは、それを所有する社会に属する市民の景観意識を何らかの形で反映してしまっているのではないだろうか。以前からわたしは動物園もドボクだ、とか言っていたのは、そのあたりのニュアンスをこなれない表現で言っていたものと思われる。

そう考えてみると、動物園の景観を撮ることになったのは、わたしにとってかなり必然的な流れだったと言える。



長くなったので、このへんにしておきます。



というわけで、この先わたしは動物園(水族館も)の展示景観を撮っていくことになります。そして、そのあたりのお話をさせていただける機会をいただきました。


大人の動物園 | 仙台市


仙台市八木山動物公園のセミナー「大人の動物園」全5回のうち、2015年の2月21日に第3回目の講師として呼んでいただきました。「風景発見!引いて撮ると見えてくる新たな動物園」というタイトルにしてもらいました。5回連続の半年間のセミナーの1回分なので、わたしの回だけの参加、というのは想定されていないのですが、もし機会が一致した方はどうか聞きに来てください。



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おやすみ前にこの一冊・・・
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東京書籍刊『カワウソ』をお買い上げくださいましてありがとうございます。おかげさまで何と4刷!

「カワウソなび」の最新情報はこちらをどうぞ↓


Where captive otters live in Japan.

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Junichi SATO

self portrait

[佐藤淳一]1963年生まれ。土木構造物と動物という、かけ離れた領域を行き来するあまり類を見ない写真作家。上の写真はベルリン地下鉄の駅の壁に貼ってあった「ハンケンスビュッテルかわうそセンター」のポスターを撮ったもの(2005年)。意図せず自分も写り込んでしまったので、公式セルフポートレートに認定。光学的にカワウソと一体化しています。

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かわうそ3きょうだい そらをゆく (にじいろえほん)
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かわうそ3きょうだいのふゆのあさ (えほんひろば)
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かわうそ3きょうだい (えほんひろば)
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空がレースにみえるとき (ほるぷ海外秀作絵本)
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ぼく、およげないの
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ニホンカワウソ―絶滅に学ぶ保全生物学
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Otter (Animal)
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Otters: Ecology, Behaviour And Conservation (Oxford Biology)
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カワウソと暮らす (富山房百科文庫 (34))
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The Ring of Bright Water Trilogy: Ring of Bright Water, The Rocks Remain, Raven Seek Thy Brother
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椋鳩十全集〈20〉カワウソの海
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ガンバとカワウソの冒険 (岩波少年文庫)
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河合雅雄の動物記〈2〉カワウソ流氷の旅
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わたしの本も、ついでにいかがでしょう?


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ドボク・サミット
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