Das Otterhaus 【カワウソ舎】

生きることは、見ること。写真作家・佐藤淳一が動物園水族館と生息地を訪ねます。カワウソがいてもいなくてもひたすら訪ねます。

カワウソがペットとして向いていない6つの理由

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写真はシンガポールの街中に出没する野生のビロードカワウソ。2016年7月撮影。


本日(2017年7月7日)から開催されている「カワウソほんと展」という企画展に写真を展示しています。

この展覧会、ペットとしてのカワウソを推す趣旨であったので、打診があったとき、まず断りました。以前からここをお読みのみなさんはご承知の通り、わたしも今まで一貫してカワウソのペット化反対の立場をとってきてますから、そんな場に自分の写真を展示することなど考えられません。


しかし、いやちょっと待てよ、と思ったわけです。


もし、ペット化したカワウソの写真を見にお客さんが多数、集まるのだとしたら、その場で「なぜカワウソのペット化は問題があるのか」を知ってもらうことには十分、意味があるのではないか。またそのためにも、ペットの対極にある野生のカワウソの姿を見てもらう必要があるし。

うっかりすると、楽しく盛り上がっているパーティ会場に爆弾を投げ込むテロリストみたいな役回りになるかもしれません。しかし誰かがその役を引き受けなければならない。他の出展者にはそういう立場の人はいないそうなので、これはわたしがやるしかない、と判断しました。もともと直前の打診だったことや、わたしがこの時期忙しくしていて最初のコンタクトを無視し続けたため、出展を決めた段階では準備のための時間がほとんどありませんでした。すでに宣伝用の文言(カワウソは簡単に飼える、的な)なども決まっている状態で、そこへ後から入り込んでいくのはかなり無謀なことです。こういう場合、普通は止めとくんでしょうね。

このようなイベントを無視したり、訳知り顔で外側から野次馬的な批判をするだけでは、価値観の違いがこれからも開いていく一方でしょう。誤解されるリスクを冒してでも、この場に入り込んで、カワウソをまだよく知らない多くの人たちに、情報や意見を知ってもらうことを優先したいと思いました。


さて今回、広く知ってもらいたいことは、大きく分けて次の2点です。


・なぜカワウソをペットにすることが問題なのか
 (密猟密輸の原因となるから)

・カワウソはペット用の動物として向いていないということ
 (飼うには相当の覚悟と設備が必要)


以下の情報は会場にもパネルで掲示してもらいましたが、このブログにも載せておきます。何のために今も日本向けのカワウソの密輸が行われているかは、それを求める人々の存在があることで説明がつきます。その需要が食用や毛皮用でないのであれば、ペット用ということになります。


【カワウソ界の現状】
・カワウソは全13種。ほぼ世界中(オセアニアや南極、マダガスカルなどを除く)に分布。

・日本ではニホンカワウソの絶滅が話題としては知られているが、動物園や水族館などでよく見られるのはカワウソ13種のうちで最小の種であるコツメカワウソ(Asian Small-clawed Otter)であり、ペットとして扱われているのもこの種。

・コツメカワウソの生息地は東南アジア〜南アジア。野生動物の保全状況を示すIUCNレッドリストでは、VU(危急=絶滅危惧種カテゴリーのうちで上から3番目の)ランク。

・小型で扱いやすいため、毛皮だけでなく野生捕獲個体が生息地の市場等に出回ることがある。

・CITES Appendix II(ワシントン条約附属書II)掲載種に指定されている。これにより商業目的の取引は可能とはなっているが、輸出国政府の発行する輸出許可書等が必要となる。しかし、現在では商用で輸出許可証を出す政府はない。

・したがって、近年日本国内に持ち込まれているコツメカワウソの多くは密輸によるものである可能性が高い。ときおり税関で発見され報道されるのはあくまで失敗例であり、その裏で成功している密輸取引による個体の総数は全く把握できていない。

・これまで生息地での学術的な調査研究は、他の地域のカワウソ種に比べて十分に行われてこなかった。レッドリスト危急種とされるが、生息地の環境破壊は今も進行中であり、これから絶滅危惧のランクが上がる可能性が高い。

・国内の動物園水族館では血統管理が行われているが、遺伝子の多様性維持のため計画的に海外の飼育施設との間で個体交換が行われているような段階ではない。また余剰個体を動物商経由でペットショップに流出させるような問題が起きているのも事実。


【コツメカワウソはペットに向いているのだろうか?】
・生息地では、ビロードカワウソとともに、漁のサポートをさせるために個人が飼育している例はある。

・ある水族館のベテラントレーナーの方から聞いた、カワウソがペットとして向いていない6つの理由

  1. 何か食べようとした時に離すのが難しい
  2. 叱ると攻撃的になるのでほめるしかない
  3. 噛まれると頭を振るのでかなり痛い
  4. 大量の運動をこなさないと悪癖が出る
  5. 鳴き声が意外に大きい
  6. 誤飲が多い


・十分な運動量の確保や、特に単独飼育の場合は長時間の密着的なケアが必要であるなど、同サイズの犬や猫よりも手はかかる。たまたま飼育が楽であった個体の特性が、コツメカワウソという種の全体の特性と誤解されないような配慮は必要。


【まとめ】
・コツメカワウソの生息地での野生個体の捕獲、密輸、不適切な環境での流通と飼育は、動物福祉の観点から考えて、大きな問題がある。



以上がパネルの内容です。

さて、今回の企画展は物販を主とするものらしいので、一応わたしもプリントに値段を付けさせていただいております。怒られそうな金額かもしれませんが、実はぜひ売りたいと思って付けた金額ではありません。わざわざ地球の反対側まで行って野生のカワウソを撮ってくるには、写真1枚当たりこのぐらいのコストはかかってますよ、ということで算出した結果です。そのへんの苦労をアピールする機会がなかなかないので、事情をご理解いただければうれしいです。

ちなみに展示写真はブラジルのオオカワウソ2点と、シンガポールのビロードカワウソ7点で、すべてB1判よりひとまわりでかい、大判プリントです。すでにブログやFlickrで発表しているショットではありますが、ノートリミングの大判プリントで間近に見ていただくと妙な迫力と臨場感があると思います。もっともわたしの撮影がすごいんじゃなくて、野生のカワウソがすごいんですけどね。

入場料がかかる展示会場で、物販が主ということもあって混雑時には入場制限もあるそうです。それでも、もし、見に行っていただいた方がいらっしゃいましたら、あらかじめお礼を申し上げておきたいと思います。ありがとうございます。


Comment

VYDRA | 2017年07月22日 20:03
安佐のユウくんが亡くなってから、少しカワウソから遠ざかっており、久しぶりにブログを拝見しました。カワウソペット化に関する啓蒙活動、陰ながら応援しております。

私はユーラシアだけでなくコツメも好きですが、飼いたいとは全く思いません。
事故を防止できる快適な環境を整え、生態や健康のバロメーター、急病・怪我等緊急時の対応について勉強し、かかりつけ病院の選定や災害時の備えをする…それだけでも大変ですが、それに加えて社会性のある生き物は躾や日々の接し方の知識と実践も必要になる…要は、犬でもコツメでも、飼育には子育て(しかも乳幼児期が10数年!)と同じ覚悟が必要だと思います。
その上で、わざわざ情報の乏しい、しかもレッドリストに載っているコツメを選ぶ気になるとは…私には到底理解できません。

この企画には残念ながら行けませんが、コツメペット化推進派の方々には、可愛い写真や若い個体の平常時のお世話内容紹介だけではなくて、上記全てを初心者にもわかり易く解説した上でオススメしてもらいたいです。それが、動物をビジネスにつかう上での最低限のマナーだと思います。

引き続き、大学の本職と二足のわらじで大変だと存じますが、コツメのため、動物ビジネスリテラシー向上のために、是非頑張ってください!
マロ | 評価 5 | 2017年07月24日 22:22
先日、この展覧会について、心配だ、という内容の書き込みをさせていただいた者です。

実は展覧会初日に東京に用事があったので、ついでに展覧会にも行ってきました。

結果、佐藤先生の展示で、カワウソのペット化は、カワウソたちを脅かすものである、という、ちゃんとしたことがうまく解説されていて、心底、安堵いたしました。ありがとうございます。

恐らく、見に来た人が単純に「私もカワウソ飼いたい!」と思ったりはしない、まともな方向に、引っ張って行くことができた、と思います。

これからも応援していますので、がんばってください!
jsato@otterhaus | 2017年07月31日 00:20
>VYDRAさま、
コメントありがとうございます。最低限のことしかできません。抑止効果としては全く足りないとは思ってますが、無理に大声を上げたり、相手方を威嚇したり攻撃したりするするのは私のスタイルではありません。微弱な力でも継続して加えること、それしかないと考えています。
jsato@otterhaus | 2017年07月31日 00:24
>マロさま、
暑い中、わざわざ見に行っていただいたのですね。ありがとうございました。今回はとにかく時間がなかったので、十分な情報伝達はできていないと思います。でももし、もっと前から参加依頼があったら・・・やっぱり断ってたと思いますけどw
Her name is Mercedes. | 評価 4 | 2017年10月29日 15:35
このような記事をありがとうございます
私もカワウソ達が大好きです

カワウソ達を好きな人が"好き、可愛いから"と言う理由だけで彼らを手元に置きたいと願うのではなく、本来彼らが暮らす自然の環境が守られるよう願ったり活動する人が増えて欲しいです
それが本当に好きになると言う意味ではないでしょうか

偉そうなことを書いてすみません
私も可愛いからと言う理由でたくさんのカワウソの画像を眺めたり水族館に行ったりするひとりです

でもある時何かの記事で本来カワウソが暮らす環境が海老の養殖場になり、その海老を私達も安く食べていると知りショックでした
カワウソだけでなく世界中でそんな風に人間に追いやられる生き物がいること、とても悲しく思いました
それからはカワウソを見る眼がとても変わりました
何時か自然の中で彼らと出逢えたら…
そんな風に願うようになりました

またこんな素敵な記事に出逢えることを祈っております
ひとりでも多くの人が現実を知れますよう
ご活躍心より応援しています
jsato@otterhaus | 2017年10月30日 08:47
> Her name is Mercedes. さま
コメントありがとうございます。カワウソが広く知られるにつれて、いろいろな見方が出てくるのだと思っています。でももっと深く知られないと、気軽に手元に置きたいと考える人も減らないことでしょう。親しみつつも、野生動物としての一線を守る、っていうのはアクセルとブレーキを同時に踏むような感じですけど、十分可能だと思ってます。

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「カワウソなび」の最新情報はこちらをどうぞ↓


Where captive otters live in Japan.

 Otter holding facilities in Japan

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[佐藤淳一]1963年生まれ。土木構造物と動物という、かけ離れた領域を行き来するあまり類を見ない写真作家。上の写真はベルリン地下鉄の駅の壁に貼ってあった「ハンケンスビュッテルかわうそセンター」のポスターを撮ったもの(2005年)。意図せず自分も写り込んでしまったので、公式セルフポートレートに認定。光学的にカワウソと一体化しています。

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椋鳩十全集〈20〉カワウソの海
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ガンバとカワウソの冒険 (岩波少年文庫)
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河合雅雄の動物記〈2〉カワウソ流氷の旅
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・・・
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