Das Otterhaus 【カワウソ舎】

生きることは、見ること。写真作家・佐藤淳一が動物園水族館と生息地を訪ねます。カワウソがいてもいなくてもひたすら訪ねます。

川の名前

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川端裕人さんの『川の名前』。何で今まで読んでなかったんだろう。


実はこれ、川端さんから直接、送っていただいたもの。経緯はこちら。


リヴァイアさん、日々のわざ: 【プレゼント企画】”人に薦めたい「川端裕人の本」”を紹介してくださったあなたに、「あなたに読んでほしい自著」を贈ります。(2012年11月開始、続行中)


以前、「ペンギン水族館」がなぜ長崎にあるのか、ということを自分で説明するのを端折り、川端さんの『ペンギン、日本人と出会う』を読んでね、ってほんのちょっと書いたことがあるんだけど、


Das Otterhaus 【カワウソ舎】 | 長崎ペンギン・ぶお〜!


それをネタに厚かましくもプレゼント企画に参加させていただいたところ、すぐに『川の名前』が送られてきたわけです。ありがたすぎです川端さん。





川端作品特有の、練り込まれたストーリー展開で一気に読まされました。というか、一気に読み切ってしまわないように、今日はここまで、という感じで抑えながら読んで、それでも5日しか持たなかった。これぞ上質なエンターテインメントの証。何か月もかけて書かれたものを、何日かで一気に読んでしまって申し訳ないなあと思っちゃうのですが、これって変ですか?

川がテーマになっているという段階で、すでに自分の興味のある方面を指し示しているのだけど、小学5年生の少年たちが主人公、っていう設定は、正直に言って、読むのにある種の覚悟が必要になりました、自分の場合。もちろんストーリーの中にいちど入り込んでしまえば、上述のように完全に没入してしまうのだけど。小学生に感情移入するための心理的な敷居がちょっと高くなっている、ということに気付かされて、ちょっとさびしくもあります。ギアを落として客体化して読めればいいんだろうけど、そういう器用なことができないたちで、小学生が主人公なら自分も100パーセント小学生の気持ちになって読んでしまう。それはそれで大変だから、その類のストーリーからはちょっと距離をとってしまう・・・今の自分がそういう状態にあることに気付いてしまった。

そして、少年が主人公の川端作品を読んだ時に必ず感じる「ああどうして自分はこんな少年時代が送れなかったのだろうか」的なくやしい思いも、しっかり味わされることになる。

でもこの作品、自分がリアル小学生のときに読んだら、どう読めたのかな。ちゃんとそこから著者のメッセージを読み取ることができたのかな。ちょっと自信ない。

小学5年生のときに自分が何を読んでたのか、ということはそれほど覚えていないんだけど、実はカワウソという動物を知るきっかけとなった小説を、自分はそのあたりの歳で読んでいたことは、以前書きました。

Das Otterhaus 【カワウソ舎】 | カワウソの海


ってことは、『川の名前』を読んだリアル小学生が、何十年もたってから人生の分岐点でこの本の影響が浮上し、自分でも驚くような選択をすることになる、ということは十分に起こり得る話なのだ。少年向け小説ってすごいなあ、とあらためて思ってしまったのだが、そもそもこの本は少年向け小説なのかな。そんなことはどこにも書いていなかったような気がする。だから誤解のないようにちゃんと書いておかないといけない。この本は大人が読んでも、それはもう、とっても楽しめますからね!





さていったい、川の名前、とは何なのか。そして主人公たちは何を観察することになるのか。このふたつは『川の名前』を楽しむ上でとても重要な要素なので、書かないでおきます。ひとつは世界の感じ方を一変させるほどの、自分の位置を記述する別の(魅力的な)方法の提案であり、もうひとつはエンターテインメントとしての強度を決定づける、エキセントリックでありながら実に豊かなリアリティの提示だ。

そうか!これってあり得る事態なのだなあ、と思わせるためのバックグラウンドが、すでにノンフィクションの著作で十分に示されているために、川端さんの小説は独特の力強さをそなえている。それがこんなに手軽に読める位置にいるわれわれは、たいへんにシアワセである。





ところで本をどこで読み終えたのか、ということはときに大切な意味を持つ。それは記憶への刻まれ方が、日常空間で読み終わるのと少し違ってしまうことの面白さを意識しようという、おそらくは趣味的な問題に過ぎないのだとは思う。でもやっぱり、いい本は記憶に残る場所で読み終わりたい。

『川の名前』はわたしの場合、夜の高知空港への着陸直前に読み終わったのでした。できれば夏だったら、もっとよかったのだけど。


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カワウソの海

動物科学館の中にはニホンカワウソのコーナーがあって、剥製がいる。

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一般に動物園で剥製を見る人は多くない。動物園は生きている動物を見に行くところだと思っているひとが大半だ。


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でもわたしは剥製が嫌いではない。忘れ去られているような場所にひっそり並んでいるそれらを見るのは、生きているやつらと対峙するのとは別の側面から、生について考えることになるからだ。



その隣の図書コーナー。本の多くは子ども向けだけども、だいたい立ち寄ってどんな本があるか、覗いてみる。そこでふと手に取った一冊の後書きに、目が釘付けになった。



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・・・この作品は最初まず、日本共産党の中央機関紙「赤旗」日曜版の子ども欄に連載され・・・





あーっ!
わたしが小学生の頃に新聞で読んで、カワウソという動物を意識するきっかけとなった小説が、目の前にあるではないか!






わたしの父の友人に共産党員がいたようで、何年か赤旗を購読していたことがあったのだ。うちは両親も子どももノンポリだったので、おそらく義理で取ってたのだろう。この小説が赤旗の日曜版(ノンポリ向けのお試し版みたいな党新聞である)に連載されていたのが、昭和48年9月2日から49年11月3日までだったという。わたしが小学校の4年生から5年生にかけてのことだ。日曜ごとに動物園に通うような動物少年、とかいうわけでもなんでもない、ごく普通の子どもだったのだけど、毎週毎週、新聞に載ってるニホンカワウソという不思議な動物と、それが生き残っているという宇和海というエリアに関して、その小説はわたしに一生消えない記憶を植え付けてしまった。


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数年前からカワウソの撮影をするようになって、自分のカワウソ原点であるあの小説のことが、うっすらと気になっていたのだ。そのうち国会図書館にでも行く機会があったら、その時にでもついでに調べてやろうとか思っていたのだが、意外にあっさり、再会できてしまった。約40年ぶりの邂逅である。


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椋鳩十著『カワウソの海』。

ポプラ社だ。ポプラ社のブックデザインって小学校の図書館のにおいがするよね。




実はこの本、まだまだ現役だった。

椋鳩十全集〈20〉カワウソの海
椋鳩十全集〈20〉カワウソの海




さっそく買って読んだことは言うまでもない。表紙の違う現行の1980年版では、挿絵は横内襄ではなく、あとがきも変わっていた。別に本マニアでもないので、中身の小説が一緒であれば気にしない(新聞連載時と単行本では、一か所ほど決定的に設定が違う部分があるのだが)。学校図書館の選定図書になっているので、古い版もちょっと探せばすぐに見つかるだろう。


40年ぶりに読んで、もちろんストーリーはぜんぜん覚えていなかったのだけど、何とも切ない小説であった。

子ども向けのカワウソ小説といったら、今や「ガンバとカワウソの冒険」の方が知名度が高いが、そのガンバに比べてストイックというかクールというか、子ども向けらしいちょっとした冒険とか、楽しい仲間との絡みがあったり、みたいなエンタテインメント指向がまるでない。もちろんカワウソが言葉をしゃべったりも、しない。子ども向けに書かれているにもかかわらず、徹底して社会派な小説なのだ。だから、読後感は、かなり辛い。日本人は、どうしてカワウソを守ることができなかったのだろうか、と誰もが反省モードになってしまうだろう。

この小説が連載されたのは、その舞台となった愛媛県よりも、高知県の方でニホンカワウソ発見騒動が繰り広げられていた時期と一致する。そしてこの小説が示唆する辛辣な結末が、その後舞台を変えても好転することなく、結局ニホンカワウソは姿を消す。



・・・


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そしてやはり、現実の生きているカワウソに接するときにも、その複雑な思いを消すことができなくなる。


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こんな連中がそこいらじゅうに住んでいたというのに、それをすっかり消し去ってしまったわれわれ日本人。


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自分が加担したわけでもないのだけれど、どうにも申し訳ない気持ちになってくるのだ。


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「反省しろぴゃ!」


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この絵(動物科学館のホールの壁画)、カワウソの場合は誇張でも何でもないよなあ。ほんとにこんな感じで遊ぶよなあ。


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この愛すべき連中に対して、自分は何ができるかなあ。


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夕方になると水面が金色に。


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種類は違っても、カワウソはみんなこんな感じで水面から様子を窺うのだ。


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遊んで、


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隠れて、


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くつろいで。


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昼は水が光るね。


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何か話しあってるみたい。


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わたしの人生があとどれだけ残っているのかわかんない(間違いなく折り返しポイントは過ぎた)けど、残りはこいつらのために使ってやろうと思ってたんだけど、何だかそれを再確認してしまった。

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デュッセルドルフカワウソ・お返しぴゃ?

[ Recently, I received some photos from Dr. Wolfgang-Walter Gettmann who is the director of Aquazoo / Lobbecke Museum in Dusseldorf Germany. The photos depict NEMO the small-clawed otter suspected my photo book "KAWAUSO" which I sent. Extremely cute NEMO often appears in the media with Dr. Gettmann. So they are popular in Germany. ]


7月に、デュッセルドルフのアクアツォーレベッケ水族館(Aquazoo / Lobbecke Museum)の館長、ゲットマン博士から、コツメカワウソのネモ(Nemo)くんが表紙になった号の機関誌を送ってもらいました。

Das Otterhaus 【カワウソ舎】 | コツメ雑誌 from デュッセルドルフ

そのお返しと言っては何ですが、『カワウソ』をお送りしてみたところ、休暇明けの館長がネモくんに本を見せて、その反応を写真に撮って送ってくれたよ。うれしいなあ!

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なんだこれ?


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ぴゃ?


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ちょっと館長〜!


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これ食べていいの?


このあと、本はどうなったんだw


ネモくん、かなりかわいいよね。アクアツォーレベッケ水族館に行ったら、わたしもぜったいネモくんを首に巻かせてもらうぞ。


館長ゲットマン博士のご好意により、写真を掲載させていただきました。
Vielen Dank Dr. Gettmann ! ! !

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  • 23:07 | Edit

おやすみ前にこの一冊・・・
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東京書籍刊『カワウソ』をお買い上げくださいましてありがとうございます。おかげさまで何と4刷!

「カワウソなび」の最新情報はこちらをどうぞ↓


Where captive otters live in Japan.

 Otter holding facilities in Japan

動物園・水族館・生息地

[動物園・水族館・生息地ごとの記事アーカイブ。カワウソ中心ですが、たまにほかの動物も出ます]

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Junichi SATO

self portrait

[佐藤淳一]1963年生まれ。土木構造物と動物という、かけ離れた領域を行き来するあまり類を見ない写真作家。上の写真はベルリン地下鉄の駅の壁に貼ってあった「ハンケンスビュッテルかわうそセンター」のポスターを撮ったもの(2005年)。意図せず自分も写り込んでしまったので、公式セルフポートレートに認定。光学的にカワウソと一体化しています。

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カワウソ本とカワウソグッズの密林セレクトショップ♪

かわうそ店長、とってもハマります。すでに9巻まで出てるよ。

かわうその自転車屋さん 1 (芳文社コミックス)
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2014-10-16


酒ケーキもいいんだけど、せんべいの方がもっといいよ獺祭。

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世界13種のカワウソが網羅されているすばらしい入門書が出ました。写真もいっぱい!

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ハンザのぬいぐるみが各種、買えるようになってますよ。
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フィギュアはシュライヒが造りがいいですね(なぜか最近すごい値段になってる!)。
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かわうそ3きょうだい そらをゆく (にじいろえほん)
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かわうそ3きょうだいのふゆのあさ (えほんひろば)
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かわうそ3きょうだい (えほんひろば)
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空がレースにみえるとき (ほるぷ海外秀作絵本)
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ぼく、およげないの
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ニホンカワウソ―絶滅に学ぶ保全生物学
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Otter (Animal)
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Otters: Ecology, Behaviour And Conservation (Oxford Biology)
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カワウソと暮らす (富山房百科文庫 (34))
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The Ring of Bright Water Trilogy: Ring of Bright Water, The Rocks Remain, Raven Seek Thy Brother
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椋鳩十全集〈20〉カワウソの海
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ガンバとカワウソの冒険 (岩波少年文庫)
ガンバとカワウソの冒険 (岩波少年文庫)


河合雅雄の動物記〈2〉カワウソ流氷の旅
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・・・
わたしの本も、ついでにいかがでしょう?


カワウソ

おそらく日本初の、カワウソだけ写真集


ドボク・サミット
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みんなで作ったドボク本



恋する水門―FLOODGATES

一家に一冊!世界初の水門写真集


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