Das Otterhaus 【カワウソ舎】

生きることは、見ること。写真作家・佐藤淳一が動物園水族館と生息地を訪ねます。カワウソがいてもいなくてもひたすら訪ねます。

ワキヤ・ロックゲート

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脇谷閘門へ行ってきた。10年ぶりである。

脇谷閘門は宮城県にあって、新旧の北上川が分流する地点に船を通すために、昔からがんばっている。昔といっても30年や40年程度ではなくで、何と昭和7年(1932年)の完成だ。つまりもう75歳を越えているがちゃんと現役である。東京近辺で言ったら六郷水門とか川崎河港水門と同年代であり、近代化遺産としてもっとちやほやされていいと思う。でも決してアクセシビリティがいいとは言えない場所にあるので土木関係者しか知らない。ちょっとかわいそうだ。

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脇谷閘門の全景。左が閘門部で、右が洗堰と呼ばれる部分。洗堰というのは、ここの場合、普段は穴(オリフィス)からほどほどの水が旧北上川へ流れ出ているが、洪水になったときには堤体を一気に乗り越えて通常時より大量の水が流れる仕組みである。ころりんとした堤体がカマボコっぽい。

脇谷閘門サイトの位置を確認してみよう。


大きな地図で見る

右側を上下に貫いて流れるのが北上川の本流。それがこの地点で、左に旧北上川を分流する。見て分かると思うけど、一本で分流しているわけではなくて、Yの字を横に倒したように2地点で分流させている。上のほうで水しぶきの写っているのが鴇波洗堰、そこから道沿いに下って岸に当たったところにあるのが脇谷閘門である。この写真は古いので写っていないのだが、脇谷閘門のすぐ右に「脇谷側水門」というのが先ごろ完成した。実はこれを見るために出かけたのであった。

え?よくわかんないですか。
じゃあ工事看板を撮ってきたので見てみて。

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まあこんな感じで工事をやってたのが、だいたい完成したらしいということである。だいたいではよくわからん、という人は、まずこちらの詳しい説明を読んで来てほしい。

旧北上川分流施設改築事業

とにかくそういうわけで新しい脇谷側水門を見に行ったのだが、まずは古い脇谷閘門と再会してきたので、とにかくちょっと見てやって。すごくカッコいいから。もう完全に見直した。というか惚れ直した。

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この開閉機器のメカニズムのむき出しっぷりはどうだ!中央の小屋(モーター室)にあるびっくりするほ小さいモーターの動力を、何個ものギア、何本ものシャフトを通して伝達、変換を繰り返し、最後にぶっといチェーンがゲートを上げ下げする仕組みである。動力部以外でも、開閉機器の荷重をちゃんとアーチで受けている構造、細い階段や手すりなど、見所満載。もう模型にして手元に置きたくなるよね。

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鉄製の階段もいいのだけど、コンクリ階段が圧巻だ。閘室へ降りていくための階段が4つ設けられているのだが、こんなふうに側面壁(垂直でないのが時代を感じさせる)をえぐって律義に形成されているのである。この写真ではわからないが、この反対側の洗堰部との壁の部分にも階段が設けられているのだが、壁がちゃんとオフセットしていて面白い造形になっている。設計者の階段に対するこだわりが伝わってくる。

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このように、脇谷閘門の躯体はかなり複雑な形状をコンクリートで律義に一体的に形成している。この塑造感はかなり、イイ! 何でイイ!のかと言うと、同時代の六郷水門や河港水門の造形はまだ濃厚な装飾性をまとっているのに対し、脇谷は装飾性ほとんどゼロ、完全にモダニズムに移行している点、そこに個人的に10票ぐらい入れたくなるからだ。すでにモダニズムに移行しちゃったような、こういう状態を「モダニ済み」と言っておこう。モダニ済み・・・今タイプミスでできた造語だ。

脇谷がこの時代にあってもうモダニ済みなのは、やはり人の目がなかったからだろう。多摩川河口という人の目に触れやすい場所に作られた六郷や河港は装飾的であることを要請されたのに対し、東北の奥地にひっそり建てられた脇谷は装飾不要と判断されたのだと思われる。実は田舎の方がやりたい放題、ということを言っているつもりはないが、そういうふうにしか聞こえないな。

さて、上の写真の左上にちらっと見えているのがニューな「脇谷側水門」だ。これを見に行こう。


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第一印象が、なんとオシャレな水門か!だった。ここはヨーロッパか!

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最近つくられた水門の中でも、出色の出来だと思う。何といっても「やっちゃった系」の要素がゼロである。ちゃんと造形している。ちゃんと色彩計画がなされている。何を当たり前のことをほめているのか、と思われるかもしれないが、このようにデザインとして真当な処理がしっかりなされている水門って、最近はなかなかお目にかからないんだ。悪い意味でなくて、尊敬をこめて「デザイナーズ水門」とお呼びしたい。

とにかく「一般大衆に媚びないスタイリング」が実現していることが単純にうれしい。これってやはり人の目をあまり気にせずともよい場所だから、媚びる必要がないからこそ出来たことなのだろうか。だとするとそれは75年前の脇谷閘門と同じ条件によるものである。つまり地域の文脈が今も継続しているということになる。その意味でもこの改修事業の最も素晴らしい点は、旧施設をぶっ壊さずにあえて残し、その機能の不足をフォローする施設を新たに加えたことだろう。コンテクストの構造物への反映が、75年後に再び繰り返されている様子を見ることができるのだ。それはとても面白く、興味深い。まさに土木だ。

より手間のかかる方法の選択、という関係者の英断に対し、まずは拍手したい。

  • Posted by jsato
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Junichi SATO

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[佐藤淳一]1963年生まれ。土木構造物と動物という、かけ離れた領域を行き来するあまり類を見ない写真作家。上の写真はベルリン地下鉄の駅の壁に貼ってあった「ハンケンスビュッテルかわうそセンター」のポスターを撮ったもの(2005年)。意図せず自分も写り込んでしまったので、公式セルフポートレートに認定。光学的にカワウソと一体化しています。

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