Das Otterhaus 【カワウソ舎】

生きることは、見ること。写真作家・佐藤淳一が動物園水族館と生息地を訪ねます。カワウソがいてもいなくてもひたすら訪ねます。

東スヘルデ防潮水門

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写真をクリックすると、Panoramio上のわたしの写真に飛びます。

今週も「水門の水曜日」がやってきた。

今週は今まで暖めてた、世界最大の連続水門、オランダの東スヘルデ防潮水門をお見せしようと思う。

いちばん上の画像が全景(の実は半分)なんだけど、この小さい写真のままだとちょっとすかすかしててよくわからないと思う。お手数ですが画像をクリックして、Panoramioってのが出たらそこでまた画像をクリックして、大きな画像で見てみてほしい。いったいどこまで水門が続くのよ、という超絶的な風景なのだ。利根川河口堰もどんだけゲートが続くのか、という気がするものだが、東スヘルデ防潮水門はそんなもんじゃない。もう行けども行けども水門。ほとんど快楽の悪夢、水門の酒池肉林とはこのことだろう。これを見ずに死ねるか、という例えはこの水門のためにこそある。世界三大水門、というのがもしあれば、この東スヘルデ防潮水門は必ずその中に入るはず。いや、わたしが絶対入れてやる。それほど凄まじい水門の連続である。何度も書いたとおり、径間45メートルの水門が62基、島をはさんで2群に分かれて連続する。上の写真には北側の31基が写っている。そういう意味でこれでもまだ半分。

この水門、よく見るとメカニカルな仕掛がたっぷりだ。普通の水門はこんなにごちゃごちゃしてない。ゲートを油圧で上下するためだろうか(普通の水門はワイヤで引っ張り上げて、自重で下げる)。

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上から2枚目の写真でもうお気付きと思うが、それぞれのゲートの高さが一定ではない。これは河床の起伏がそのまま反映されているため。工事のプロセスなどは、この水門に挟まれた島、ネールチェ・ヤンスにあるデルタエクスポ(デルタパーク)の展示で詳しく説明されているのだが、ものすごく簡単に言うと、粗朶沈床(そだちんしょう)という伝統的な工法の現代版なのである。誤解を恐れず(というかわたしがちゃんと理解してないかも)に言うと、元の地形に逆らわずに人工物を巧みに設置する方法が採用されている。粗朶沈床って、南蛮渡来というか、デ・レーケの時代の話だと思ってたらちゃんと進化してて、こんなでかい構造物の基礎として使われているということを知って腰が抜けそうになった。展示場でおおおー、とか唸ってしまって怪しい日本人だ。

粗朶沈床は木の枝と石みたいな自然素材でマットレスを作るのだが、東スヘルデ防潮水門の場合はコンクリブロックとワイヤでできたマットレスだ。それを敷いた上にピアを置いて、ベース部分に大量の石を積んで固定する。杭とか打たなくて大丈夫なのかと思う。何でそんなんで動かないのかわからないのだが、とにかくそれでがっちりと固定されているらしい。原理的にはものすごくプリミティブだが、ピアを船で引っ張ってきて着床させる際の位置の制御なんかはいろいろハイテク技術が使われておりちょっと安心だ。ベース固定用の石を沈める時も、適当に水面上から落とすのではなく、専用の装置を使って決められた位置に設計どおり落としていたりする細やかさ。

正直な話、この水門を見に行くことができてよかった。オランダのドボク全体がそうなのだが、人間が地球表面に手を入れることの意義が、ものすごく明確に示されているのだ。水を遠ざけて乾いたエリアを作り、維持する。その目的はありとあらゆる人間の活動の、まさに「インフラのインフラ」になるものであるだけに、揺らぎようがない。その強度に打たれた。

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Junichi SATO

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[佐藤淳一]1963年生まれ。土木構造物と動物という、かけ離れた領域を行き来するあまり類を見ない写真作家。上の写真はベルリン地下鉄の駅の壁に貼ってあった「ハンケンスビュッテルかわうそセンター」のポスターを撮ったもの(2005年)。意図せず自分も写り込んでしまったので、公式セルフポートレートに認定。光学的にカワウソと一体化しています。

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