Das Otterhaus 【カワウソ舎】

生きることは、見ること。写真作家・佐藤淳一が動物園水族館と生息地を訪ねます。カワウソがいてもいなくてもひたすら訪ねます。

崩壊地ブック

『崩壊地ブック』届いた。

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ダム日和takaneさんが作られた、崩壊地の入門ガイド。素晴らしい。

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いったいこのA5判のブックレットの、何が素晴らしいのか。

今までこういう河川系ドボクなものに対して、わたしたちは人間の作った構造物(ダムとか水門とか)を、その対象として驚嘆したり鑑賞したりしていたわけだが、『崩壊地ブック』は、崩壊地、あるいは崩壊という現象そのものを対象にしているという点が、まず新鮮だ。

もちろん崩壊地には、砂防ダムや擁壁などの構造物も山ほどある。しかしこの本ではむしろ構造物を発生させる原因の方に主要な着眼があって、構造物は崩壊地を形成する数ある要素のひとつに過ぎない。

というか、砂防は手を替え品を替えの世界だから、構造物の種類もそれこそふんだんにあり、それを分類し解説していくという一般へ向かう方向性よりも、まず現地行って見てこいよ、というtakaneさんの意図があるものと思う。

こういうアプローチの仕方で、マニアックな視線(表面的でない深い理解を求める意志という意味)を通し、知られざる山奥の土地の情報を流通させることに力を注ぐことは、とっても意味のあることだと思う。水源地やそのもっと上では、いったい何が起きているのか、ということに目を向けさせてくれるのだ。

あくまで推測だけど、砂防って簡単には一般化できないものなのかもしれない。現場によって現象が違い、それを受け止めたり防いだりする解法も、それぞれ別の形を取るのではないか。もちろん小技としての標準解法はあるんだろうけど、やはり総合的に見たときに、現場ごとに最適解がぜんぜん違う、みたいな世界なのではないか。土木なんて何でもそうだろと言われたら、おそらくその通りなんだろうけど。


個人的には、むかしから砂防が気になってたので、崩壊地を訪ね歩きたい気持ちはある。でも、今までも何か崩壊地の持つ荒々しさに拒まれるような経験があるので、ふらふらと行ってしまったりはしないような気がする。興味はあるけどあまり行きたくない、という場所はあるものだ。だからこっち方面は適任者に任せようと思っている。

ダムの根本的な機能を考えたとき、ダムだけで貯水量が確保できるわけではないから、山にはもっともっと木を植えないといけない。治水面からも、これはそれこそデ・レーケの昔からの命題だ。しかし、そのまま木を植えたりしただけでは済まない(あるいは植えたくても植わらない)崩壊地のような存在を知ってから、そういう意見を言わないといけないな、と思う。コンクリートを見ると何でも自然破壊と騒ぐような、短絡的思考回路を持つ国民を増やしてはいけない。


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あ、石狩川の頭首工の最終回、もう書いてあるんだけど、Panoramioが大規模メンテナンスで、写真のアップロードができなくなっているのでちょっとお待ちを。

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WJ13、先週出てますよ。
今回は北上川の「福地水門」を載せてもらってます。円筒分水特集も必見。
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新千歳空港のすぐ近所でカヌー

暑いので納涼企画。

今年はわたしを水面に連れて行ってくれる人が現れる年、なのかもしれない。もとより水は好きなので、たいへんにうれしいことである。

先日、札幌の水門プロの松本さんに、水門ばっかり撮ってるのも何なので、カヌーで千歳川とか美々川とか下りませんか、というお誘いを受けて、遠慮なく乗っからせていただくことになった。

カヌーといったら、やはり釧路川とかものすごく辺鄙な(失礼!)場所でやるもんだろうと思っていたから、千歳川でカヌーと言われても、実はイメージがまったく湧かなかった。

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まず千歳川。ここから出発するそうな。えー、思いっきり街中なんだけど(笑)。おお、レベル4より上の斜線の部分はいったい何なんだ、とかツッコミを入れる平常心がまだあった。

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え?
ちょっと待って。すっごく水がきれいじゃない。何でこんなに透明度が高いのかしらん。これはひょっとしてすごい川なのかもしれないぞ千歳川。

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photo by Yuichi Jimbo

こんな感じで出発。同じく水門プロの神保さんには後方支援を担当していただいた。と書くと聞こえはいいが、実は地上でお留守番。車でゴールに先回りしてもらうので、留守番は変だな。何と言ったらいいのかわかんないけど、とにかく損な役回りをしてもらっちゃって、どうもすいませんでした。>神保さん

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二人乗りの空気でふくらますタイプのカヌーの、前に乗せてもらって漕がずにぼーっとさせていただく。なぜ漕がないか、というとわたしが漕ぐと真っ直ぐ進まず、後ろの松本さんの仕事が増えるからである。

岸の木の上から青い鳥が飛び立つのが見えた。松本さんによれば生のカワッピーだそうだ。つまりカワセミ!そんな簡単に見られるものとは。

写真で見ると静かに川下りしているように見えるかもしれないが、上空では千歳基地のジェット練習機とかガンガン飛んでるですよ。

あ、出た!

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千歳川は街中〜畑のようなところを流れているので、ちゃんと樋管などもある。この水面プラス自分の座高という低い目線から見ると、樋管はちゃんと「管」であることがよくわかる。ゲートの見方がちょっと変わった。

千歳川はこんな街中でもまだ湧水があり、樋管からの流入があるのに透明度が高いのだそうだ。それでも下るにつれて少しずつだが濁ってきて、富栄養化した川底には水草がぎっしり、という状態になる。

後半はわたしもまっすぐ漕げるように練習させていただいた。基本的に前の人はエンジンなので、方向は考えなくてもいいそうです。それなら何とかなりそう。




つぎ、美々川へ。車で移動。

美々川はもっと新千歳空港の近所を流れている。すでに分水嶺(ものすごく低い、ほとんど平地の分水嶺)を越えてしまっているので、こっちの水は太平洋に向かって流れていることになる。

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出発点からしばらくは、ものすごく屈曲したとっても狭い水路を通る。漕いでいるというより、岸をパドルで突いて進む感じ。カヌー1隻で幅がいっぱいだ。突き出した枝をくぐったりして、ほとんどアミューズメントパークのアトラクションか、という感じ。まるで人間がそのために作ったような、おもしろ楽しい川である。

当初の区間は進むのに忙しく、写真をまるで撮っていないので、これはだいぶ落ち着いてからの様子。それにしてもどうよ、この水の透明っぷり! 野生のクレソンが食べ放題だ。ローストビーフと赤ワインがほしい。

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これ、ほんとに探険アトラクションなんじゃないか、と思えたのは、とあるカーブを曲った途端にこんなのが現れたとき。

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まじめな白鳥は今ごろはシベリアにいるはずで、真夏にこのへんにたむろっているのはきっとヤンキーに違いない。ノラ白鳥というか、不良白鳥だな。そう思って見ると、ちょっと目つきが悪いようにも思える。

どう見ても友好的にカヌーをよけてくれるようには見えず、カツアゲでもしそうな勢いである。至近距離で見ると白鳥はボリューム満点で、あんなボディで襲ってきたら結構、人間といえどもダメージを被るだろう。

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ヤンキー白鳥に襲撃されて道内のTVニュースに出演したりするのはいやだ。

少しずつ接近して、やんわりと圧迫を与えて、ようやく進路をゆずらせるのに成功。君たちもいろいろ事情があるんだろうけど、真面目にやんなさいよ。タバコは背が伸びなくなるから止めた方がいい。

不良白鳥のアトラクションを抜け、鮭漁の仕掛エリアを回避するために一時上陸したりして、最後は川幅も広くなった。流れがほとんどないので、ゴールを目指してガンガン漕ぐ。

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上空は新千歳空港を発着するジェット機の音がひっきりなしに響いているし、堤防がないので車の音もかなり聞こえる。視覚と聴覚がまるでマッチしない何とも不思議な空間である。

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上陸後、松本さんが「もうアウトドアはこりごりなんじゃないの」とおっしゃられた。いえ、そんなことはないです。カヌーで人生変わりました。

わたしの人生はこのように変わりつつあるらしい。

穴が空くほど

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国土地理院の『地図一覧図』。

1:25,000地形図の持ってるところを黄色に塗って使い続け、気がつきゃ同じ一覧図を11年使ってた。これもうほんとにボロボロ。

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こんなふうに穴が空いたり、図の名前が変わってたり(空港ができたりとか)するので、いよいよ替えなきゃまずいな。でももういちど黄色に塗るのはとっても面倒である。

こんなふうにわざわざ塗ってるのは自己満足のため、というよりは、同じ地図を2枚買わないための原始的な工夫だ。それでもやっぱり何枚か同じ地図(しかも同じ版の)を買ってしまってる。


*ちなみにこの図の最新のデータはここで手に入りますよ。
http://www.jmc.or.jp/map/ichiran/ura/ura.html


日常的にはGoogleマップなどでほとんどの用事は事足りるが、撮影に出る時はやはり昔ながらの地形図が便利だと思う・・・なんて言ってんのもあと数年かもしれん。携帯でオンラインマップ見れば、フィールドにいても同じことだからね。GPS(いまだに買ってないですよ)を買った時がそのタイミングだろうとは思ってる。ずっと前から。

でも、地図を大きく広げたとき、あるいはそれを何枚かつなげた時に得られる広大なミニチュア的視野は、これはちょっと捨てがたいもんだ。小さな液晶画面をちょこちょことスクロールするのとは全く違う空間が、目の前にばーんと現れる。殿様な気分。

もうずいぶん前、撮影中に立ち寄ったウナギ屋の座敷で、北上川の地図を宮城岩手県境から河口まで並べてみたことがある。ちょうど上の写真で、折り目がすり切れた部分ね。なんだかうれしくなって思わず並んだ地図の上でごろんごろんしてみたり。うーん。あれは「北上川ひとりじめ感覚」だった。

同じこと(ごろんごろん)を淀川と信濃川でやったことがある。単なる地図フェチなのかもしれない。

おやすみ前にこの一冊・・・
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東京書籍刊『カワウソ』をお買い上げくださいましてありがとうございます。おかげさまで何と4刷!

「カワウソなび」の最新情報はこちらをどうぞ↓


Where captive otters live in Japan.

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Junichi SATO

self portrait

[佐藤淳一]1963年生まれ。土木構造物と動物という、かけ離れた領域を行き来するあまり類を見ない写真作家。上の写真はベルリン地下鉄の駅の壁に貼ってあった「ハンケンスビュッテルかわうそセンター」のポスターを撮ったもの(2005年)。意図せず自分も写り込んでしまったので、公式セルフポートレートに認定。光学的にカワウソと一体化しています。

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世界13種のカワウソが網羅されているすばらしい入門書が出ました。写真もいっぱい!

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フィギュアはシュライヒが造りがいいですね(なぜか最近すごい値段になってる!)。
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かわうそ3きょうだい そらをゆく (にじいろえほん)
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かわうそ3きょうだいのふゆのあさ (えほんひろば)
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かわうそ3きょうだい (えほんひろば)
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空がレースにみえるとき (ほるぷ海外秀作絵本)
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ぼく、およげないの
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ニホンカワウソ―絶滅に学ぶ保全生物学
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Otter (Animal)
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Otters: Ecology, Behaviour And Conservation (Oxford Biology)
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カワウソと暮らす (富山房百科文庫 (34))
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The Ring of Bright Water Trilogy: Ring of Bright Water, The Rocks Remain, Raven Seek Thy Brother
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椋鳩十全集〈20〉カワウソの海
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ガンバとカワウソの冒険 (岩波少年文庫)
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河合雅雄の動物記〈2〉カワウソ流氷の旅
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・・・
わたしの本も、ついでにいかがでしょう?


カワウソ

おそらく日本初の、カワウソだけ写真集


ドボク・サミット
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みんなで作ったドボク本



恋する水門―FLOODGATES

一家に一冊!世界初の水門写真集


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