Das Otterhaus 【カワウソ舎】

生きることは、見ること。写真作家・佐藤淳一が動物園水族館と生息地を訪ねます。カワウソがいてもいなくてもひたすら訪ねます。

誰も行かないような石狩川の頭首工めぐり3

どうも昔から動画というものが苦手で、頭首工めぐりなんか動画の方がぜんぜんいいんじゃないか、と思うのだけどやれてない。頭首工は必要とされる視野がパノラマだし、ダムの放水より規模は小さいが、常時ごぅごぅと水の落下音なんかもするし、どう考えても動画の方が有利だ。このへんでちょっと考え直した方がいいな。

前回の大雪頭首工から、さらに2.8キロ上流に来た。これ以上先はすっかりクマーの世界かと思ってたらぜんぜん違ってて、ちゃんと田畑があって市街地もある。大変に失礼しました。やはり北海道って奥が深いですな。


石狩川愛別頭首工。
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IshikarigawaAibetsu_HW1
写真をクリックすると、Panoramio上のわたしの写真に飛びます。

位置情報と大きな写真は、毎度ながら写真をクリックしてPanoramioから見てね。


言わなくてもわかると思うが、平成19年度竣工なので新しい。旧頭首工はここから500メートル下流にあったが、すでに撤去済み。その撤去工事のプロセスがちゃんと論文化され、公開されている。「アンカー式土留め工法」に興味のある方はどうぞ。


[PDF] 石狩川愛別頭首工の旧取水口撤去 及び閉塞工事について


前回、寒色系の色に塗ったりしたら吹雪で見えなくなってアウトだ、とか書いたが、ここがまるっきりそれだった。おまけに上流側の堰柱に付けられている警戒色も省略されている。頭首工の色に対する考え方が、180度変化していることがよくわかる例になっている。「自然環境等との調和への配慮」は魚道設置だけでは評価されないのだろうか。視覚的に施設の存在を消す方向へ向かわないと、環境に配慮したことにならないのか。いつも思うのだけど、そういう考え方って、いったいどこから来ているのかな。

だいたいそういう議論をするときの環境って何なのか。人間が作った構造物まで含めての環境ではないのか。特定の色が突出してよくないのは広告看板の話であって、その評価軸を防災系の構造物に適用することはないと思う。

新しい石狩川愛別頭首工は純粋な利水施設ではないのか、とツッこまれるかもしれないが、実はそんな単純な話ではない。「国営総合農地防災事業」という予算で作られているので、半分は防災施設ということになっている。旧頭首工がボロくなったというより、堰の洪水流下能力が不足したために計画されたのだそうだ。

でも待てよ。それって可動堰が「洪水時に邪魔にならない性能」を上げるためであって、可動堰そのものが積極的に防災に寄与するわけじゃないよね。そういうのも積極的に防災って言っていいのかな。

よくわからなくなってきた。

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まあソバでもどうぞ。

誰も行かないような石狩川の頭首工めぐり2

頭首工めぐりの話は地味になるだろうな、と思ってけど、やはりその通りになっている。これを機に、今後はもっと地味に生きようかなどとよくわからないことを考えて次の頭首工へ向かう。天気もきわめて地味で、時おり雨が強くなるので、基本的にやってられない感じだ。

9キロ上流にある大雪頭首工は、地形的に大きな特徴はないところだが、JR石北本線がすぐそばを通っているため、割と簡単に見つかった。ひろびろとしたサイトは手入れも行き届いて明るい雰囲気。ちょうど雨が止んでくれたので早速、撮影させてもらうことに。

大雪頭首工。
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位置情報と大きな写真は、毎度ながら写真をクリックしてPanoramioから見てね。以下同様。

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昭和46年竣工だから30代後半である。70年代特有のすっきりした構造物だなと思ったが、よく見ると堰柱のコンクリートは新しい。後年補強したものだろうか。

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上屋もないけど開閉機器にはカバーがかけられている。あらゆる金属部がオレンジ色に塗られており、雪景色の中で見たらひときわ映えるに違いない。でも寒いのはイヤだ。このあたりは冬はマイナス30度とかだろう。わたしは夏生まれなので、そういう温度域は仕様外だ。

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まあとにかくこの豪快な塗りっぷりを見てほしい。どうせ人が来ないところだから景観配慮の色彩計画とか、そういう面倒なことは抜きにして今日は無礼講だ、と言いたい。

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そういえば今思い出したけど南極観測船もオレンジ色である。やはり氷雪系の苛酷な環境では、この容赦なくド派手なオレンジ色に、機能的な強い意味が込められてしまうに違いない。こじゃれて都会的センスな寒色系の色など塗ってしまうと、きっと吹雪の中では見えなくなってしまってあっという間に役立たずだ。

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ペンキ飛び散ってる。やっぱり豪快。


そして、管理棟がこんなだ。まさに60〜70年代のエスプリの効いたモダニズム建築というか丸くてかわいい。エスプリって何だ。

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現役の百葉箱をひさしぶりに見たような気がする。


これ撮ってたら、近所の人なのか管理の人なのか、車で現れたのでご挨拶。スズメバチの巣があるから気をつけなさいとのこと。ここはクマは出まいと思って安心し切ってたら、別の方面から危険が迫っていたわけだ。んもう、全く気が抜けないじゃないか石狩川上流っ。

でも、ここはとてもいいところだ。すごく気に入った。北海道の頭首工ベストテンをやったら確実にランクインだろう。去りがたい風景をもう1枚。こういうすっきりした、必要最低限みたいな量感の構造物は、もう今後、作られないんじゃないだろうか。

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これも大きくなりますよ。

また雨が降ってきた。とりあえず次の頭首工へ向かおう。


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銘板がなかったので表札ですよ。


# 大雪を「たいせつ」と読むのか「だいせつ」と読むのか悩むところだが、JAがひらがなで「たいせつ」と名乗っているので「たいせつとうしゅこう」ということにしておきます。違ってたら誰か教えてください。

誰も行かないような石狩川の頭首工めぐり1

水門を訪ね歩いていると、川の下流をうろうろすることが多い。水門があるのは基本的にがっちりと堤防の築かれた下流域だからである。では上流はどうなっているのか。もちろんずーっと上流の山の中にはダムがあるのだが、ダムまでの間には大きな構造物は何もないのかというと、そういうわけでもない。農業用水の取水のために作られた可動堰がある。それが頭首工と呼ばれることは最近書いた通り。ひきつづき今度は石狩川の上流に分け入って、もう誰も行かないような場所にある頭首工に行ってみた。

石狩川の上流部はかなり奥まで米作地帯なのだ。もともと暖地性の植物である稲がこんな寒いところでも育つのは不思議な気がするが、そういうことをやり遂げてしまうところが日本人の器用さなのであって、がんばって作れるようにしてしまった。言うまでもないが米を作るためには大量に水が必要なので、用水が発達する。本州以南であれば古代から稲作をやっているから取水施設や用水路もわりと素朴というか小規模というか、前近代からのものがずっと使われていたりすることも多いのだろうけど、北海道では用水システムも近代以降に一気に構築されたので、頭首工がどーんと立派なのではないかと思っていた。それを確かめるためにはぜひ見に行かねばならない。それってどんな使命感なのか。

前回の神竜頭首工から27キロ上流。JR宗谷本線に比布という駅があって、大昔ピップエレキバンのCMでやたら有名になったのだが、その隣の駅である南比布の近所にあるのが近文頭首工だ。まるで説明になってないな。とにかく国道のすぐ脇にある神竜頭首工などとは違って、見つけにくいところにある。当然のことながらカーナビに頭首工など出ないので、あてになるのはやはり2万5千分の1の地形図だけである。

北海道のいいところは、河川の堤防が一般車通行可であるところ。信じられないほどナイスなサービスだと思ったが、他に道がなかったりするのでサービスじゃなくて現実的にそうでないと困るのだった。細い堤防をずーっと走ってて、対向車が来たらどうしようと思ったが対向車は確率的に「来ない」とみなせるのである。でももし、万が一来た場合のために、「側帯」というのが作られている。もちろん側帯はすれ違いポイントではなくて、あくまで堤防の非常用の土砂を備蓄したりするための付属施設である。でもたまたま、あくまでたまたますれ違いにも便利だったりする。このあたりのホンネとタテマエ的な柔軟な運用が北海道らしくていいぞ。

堤防の上を走っても川までの間の空間には木が生い茂っており、頭首工の姿が全く見えない。地図で当たりをつけたところに突っ込んでみたら、2度目で当たった。

はい。お待たせしました。

近文頭首工。
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平地の河川敷だからクマは出ないはずだけど、それ以外の何が出てもおかしくないような場所である。おまけに雨が降ったり止んだりで撮影どころじゃない感じだ。草をかき分けて水面まで行くと、対岸の取水口のある側はもうちょっと開けている感じがする。あっちから攻めるべきであったか。


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今日まわる中で最も下流の頭首工で、すでにこの雰囲気である。これより上流だといったいどうなるのか。最終的にやはりクマに襲われるのではないかと心配になってきた。


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写真だと静かな水辺の空間という雰囲気だが、実際には水が落下しており、結構な大音量でざーざーいっている。だから後ろからいきなりがぶり、みたいな襲い方が可能で危険である。


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写真をクリックすると、Panoramio上のわたしの写真に飛びます。

位置情報と大きな写真は、毎度ながら上の写真をクリックしてPanoramioから見てね。

雨が心配だが次の頭首工へ向かう。
次回をお楽しみに。


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お約束の銘板。でも農業水産部長のサインはなかった。

おやすみ前にこの一冊・・・
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「カワウソなび」の最新情報はこちらをどうぞ↓


Where captive otters live in Japan.

 Otter holding facilities in Japan

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Junichi SATO

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[佐藤淳一]1963年生まれ。土木構造物と動物という、かけ離れた領域を行き来するあまり類を見ない写真作家。上の写真はベルリン地下鉄の駅の壁に貼ってあった「ハンケンスビュッテルかわうそセンター」のポスターを撮ったもの(2005年)。意図せず自分も写り込んでしまったので、公式セルフポートレートに認定。光学的にカワウソと一体化しています。

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