Das Otterhaus 【カワウソ舎】

生きることは、見ること。写真作家・佐藤淳一が動物園水族館と生息地を訪ねます。カワウソがいてもいなくてもひたすら訪ねます。

大森山キリン・ハズバンダリートレーニング2

[ Continuing report of Giraffe's training at Akita Omoriyama Zoo. The giraffes are given a lot of leaves as a snack. And the giraffe keeper Mr. Shibata has a training for Llama too. ]

120804_01
カンタと柴田さん。秋田市大森山動物園のアミメキリンがつづきます。


120804_02
わーい♪


120804_03
こっちこっち!


120804_04
いや、あっちだ〜!


120804_05
もしゃもしゃ


120804_06
うまうま〜♪


ふたたび柴田さんにうかがったこと。

動物園にいるキリンたちは、基本的に乾草(主にウシ用の牧草を干したやつ)が主食で、本来の主食である木の葉はおやつ程度にしか与えられません。大森山では、何年か前に動物園周辺の公園までが動物園の管理?になったらしく、木の葉を入手するのが楽になったのだそうです。とはいっても、いちいち枝を払ってキリン舎まで持って来る必要があるわけですから、キーパーさんの仕事は増えてしまいます。枝ごと水に浸けとくと3日は持つそうですが、大変な作業であることに違いはない。

同じ乾草でもイネ科主体のものを与え続けていると、だんだん歯が弱くなるんだそうです。カルシウムが足らんのでしょうか。これをマメ科主体のやつに切り替えると、そのあたりが改善されるようです(実際、キリンの食い付きもよい)。値段はそんなに変わらないらしいので、他の動物と共用の乾草にしないで、ちゃんとキリンに最適なものを選ぶ必要がある、ってことですね。


120804_07
おいしい葉っぱタイムです。


では動物園で木の葉をキリンの主食にすることが可能かどうか。これにはもちろん量の問題もありますが、冬に入手困難になってしまうという問題の方が大きいのです。柴田さんは木の葉で乾草を作って保存することを試みられてました。しかし作業量が膨大でリアリティがないので、飼料メーカーで作ってくれればいいのに、ということでした。こうなるとやはりコストの問題になるのか。

極端な話、ジャイアントパンダとは言わないにせよ、せめてコアラなみの予算を投入すれば可能なはず。そしてそれによってキリンの寿命(今よりもっと延ばせるはず、と柴田さんは考えてた)を延ばすことが期待できるわけだけど、何となくいるのが当たり前みたいな存在であるキリンのために、そこまで潤沢な予算を確保するのは一般的に難しい。そこを彼のような情熱あるキーパーさんの自主的な努力が埋めているのが現状なんだけど、そのあたり、もうちょっとどうにかならないもんだろうかと思ってしまった。

問題の根源は、キリンなんか動物園にいて当然、とどこかで思ってる、われわれの安易な動物観にあるのだろうなあ。もちろんキリンに限らず、もう動物園にいて当たり前、なんて動物はいるわけなくて、すべての動物は動物園にいてくれて「大変にありがたい!」と思わなきゃいけない時代に、われわれはいるんだけど。



・・・



さて、大森山のキリン舎にはリャマ(ラマ)もいます。

120804_08
いえ〜い!


120804_09
えっへん。

1歳の♂、ヒロです。


120804_10
当然、ヒロくんもトレーニングの対象w


120804_11
さあ、トレーニングはじめるよ


リャマのトレーニングは、やたら人間に唾を吐きかけない個体にすることであり、あとはリードをつけて安全にお散歩できるようになること。本来は使役動物なので、ゆくゆくは荷物も背負えるようになるといいよね! リャマが他の動物のエサを運ぶ動物園、なんていいなあ!



120804_12
まずは首輪をさわってもいやがらないように。


120804_13
ピー(よくできました)。


120804_14
そしたら次は・・


120804_15
リードをつけます。


120804_16
準備完了。


120804_17
では出発!


120804_18
外は暑いねえ・・・


120804_19
リードを付けた状態で、


120804_20
ぐるぐると


120804_21
パドックを歩き回ります。


120804_22
よくできましたー♪


120804_23
そしたら最後に、おすわり!


120804_24
グッジョ〜ブ!


120804_25
ところでこのキリン舎の床をご覧ください。砂が敷かれてますね。

一般にキリン舎の床はコンクリートで、フンや食べ残しを水で流す掃除がしやすいようにわずかな傾斜がつけられており、その上にワラが敷かれています・・・というのは要するに牛舎と同じ発想でできているわけですな。しかし大森山ではそんなふうに作られていた標準的なコンクリの床の上に、あえて厚く砂が入れられています。

たしかにこの方が滑りにくく、どう考えてもキリンのためによさそうに見えます。なのにどうして他所がこれをやってないのかというと、やはり掃除が大変と思われているからだろうとのこと。いつもは掃き掃除だけで、砂の交換は何と年に1回。それで特に匂いもない。だったら絶対、砂の方がいい!


大森山キリン・ハズバンダリートレーニング1

[ Last week I visited Akita Omoriyama Zoo to meet the giraffe keeper Norihiro Shibata. He started husbandry training of Reticulated Giraffe from last year, and got amazing results. These are very effective measures for animal health care, such as scraping hooves and taking blood for a test. ]


120803_01
秋田市大森山動物園の熱いキリンキーパー、柴田さんに会いに行ってきました!



まずはキリンたちをご紹介。

120803_02
こんにちは、リンリンです。


120803_03
すごいツノ毛ぼわぼわ!と思ったらそれもそのはず。去年亡くなった盛岡のリリーさんの娘だった(あとで気が付いた)。そういう肝心なことを忘れて行ったらいかんね〜。


120803_04
カンタです。オカピなみにマユゲ濃いです。


120803_05
カンタ2歳。まだまだ成長するぜ。




さて、お読みくださっている皆さまには先刻ご承知と思われますが、大森山のキリン担当キーパー、柴田典弘さんが昨年からはじめたキリンのハズバンダリートレーニングが、動物園業界で話題になっています。

120803_06
ハズバンダリートレーニング(husbandry training)とは、本来は野生動物を家畜化するための馴致技術一般を指すのだと思いますが(まちがってたらすいません)、現代の動物園という文脈で使われた場合、もう一歩つっこんで飼育動物の健康管理のために行われるトレーニングのことを指してます。かつてのように芸を仕込むためにトレーニングをするのではなく、病気の予防や治療のための行為をスムーズに行えるよう、ふだんから動物がさわってもいやがらないようにトレーニングするわけです。

水族館のイルカなんかはどこでもやっていることだと思いますが、動物園のキリンにこれを適用する人はいませんでした。しかし柴田さんはやってみたんだねえ。そしてちゃんと成果を出した!すばらしい!!!




・・・
【追記 2012.8.3】ここでさっそく柴田さんからご指摘が。柴田さんには師匠(当時羽村市動物園にいらして、現在八景島シーパラダイスに戻られた竹内さん)がいらして、師匠からの呼びかけを即座に実践してみたのがそもそものはじまりなんだそうです。熱い人の後ろには、また熱い人がいるんだねえ!
・・・




柴田さんがトレーニングのための場所に出ると、さっそくリンリンがやって来ます。

120803_07
いそいそ


120803_08
リンリン、やる気満々!


120803_09
ますは横向きのトレーニング。これ、ものすごく普通に見えるかもしれませんが、キリンは基本的にエサがほしくて正面から近づいてくるのであって、それをあえて横向きにさせる、というのはトレーニングの成果なんです。何で横向きにするのかって?しっぽ引っ張って遊ぶためじゃありません。おなかやおしりを診察するためには、後ろから近づくわけにはいかないでしょ(うっかりそんなことしたらけっ飛ばされます!)。


120803_10
続いてターゲットを使ったトレーニング。


120803_11
この魔法のスティックみたいな棒を足元に持って行くと・・・


120803_12
足が出ます。


120803_13
こうすることによって、ひづめを削ることができるのだ。


動物園のキリンは、野生に比べて歩く距離が少ないなどの原因でひづめが伸びすぎることがあります。最悪の場合、歩けなくなっちゃうことすらあるので、伸びすぎた部分は削らなければいけません(削蹄といいます)。従来はそのために麻酔をかけたりする必要がありました。しかしそれはたいへんなリスクを伴うし、なにより動物だって麻酔かけられるのはイヤです。だからこうやってひづめのお手入れができるようにするのはとっても大切なこと。



120803_14
よくできました〜♪

言うまでもありませんが、トレーニングはオペラント条件付け、という方法で行われます。期待する動作ができたらえさをあげて、笛を吹くわけです。要するにほめて覚えさせる。


120803_15
次のメニューは・・・


120803_16
採血!

人間でもイヤな採血ですが、キリンが簡単にさせてくれるのでしょうか?


120803_17
ぷすっ!


120803_18
痛くない痛くない・・・

実際に採血するのは10日ごとだそうですが、トレーニングはもちろん毎日。


120803_19
ここから先は世界レベル!

なぜなら、キリンは首の内側に人が入るのがイヤなので、ここまでやらせてくれるというのはかなりの信頼関係ができているからなんですね。ネッキングでぶっ飛ばされる危険性を考えて、欧米の動物園ではキリンも間接飼育になってるんじゃないか、ということです。ってことはここまでやれるのは柴田さんだけなのかも。


120803_20
ここはたたいても大丈夫。というか、注射する部位にはぺちぺちして、刺激に驚かないようにしておきます。


120803_21
そしてこれはおそらく難度G。耳の内部にふーっ、とな!


いやー、すごい。何よりリンリンが楽しそうにしているところが面白いです。トレーニング、というより遊んでもらっているようにすら見えます。その証拠に、リンリンがトレーニングしているのを、カンタが後ろからじーっと見ていました。


120803_22
ぼくもトレーニングしたい!



静止画像では何だかよくわからん、というあなたへ。柴田さん自身がトレーニングの様子をおさめた動画をアップされています ↓ ので、見てみてね。

秋田市大森山動物園 - YouTube

つづきます。

おやすみ前にこの一冊・・・
160px_kawauso_book
東京書籍刊『カワウソ』をお買い上げくださいましてありがとうございます。おかげさまで何と4刷!

「カワウソなび」の最新情報はこちらをどうぞ↓


Where captive otters live in Japan.

 Otter holding facilities in Japan

動物園・水族館・生息地

[動物園・水族館・生息地ごとの記事アーカイブ。カワウソ中心ですが、たまにほかの動物も出ます]

月別アーカイブ
カテゴリ別アーカイブ
記事検索
タグ絞り込み検索
Junichi SATO

self portrait

[佐藤淳一]1963年生まれ。土木構造物と動物という、かけ離れた領域を行き来するあまり類を見ない写真作家。上の写真はベルリン地下鉄の駅の壁に貼ってあった「ハンケンスビュッテルかわうそセンター」のポスターを撮ったもの(2005年)。意図せず自分も写り込んでしまったので、公式セルフポートレートに認定。光学的にカワウソと一体化しています。

 Biography + Bibliography
(展覧会と各種掲載リスト)


 Floodgates

 Twitter : otterhaus
 Facebook : otterhaus
 Tumblr : otterhaus
 Tumblr : otterhausanbau
 Flickr : Otterhaus

* 依然として記事の内容に無関係なスパム的書き込みが多いため、各記事に対する新規コメントは現在、受け付けておりません。ご連絡はFacebook、Twitterをご利用いただければ幸いです。


キュイキュイ書房
カワウソ本とカワウソグッズの密林セレクトショップ♪

かわうそ店長、とってもハマります。すでに9巻まで出てるよ。

かわうその自転車屋さん 1 (芳文社コミックス)
かわうその自転車屋さん 1 (芳文社コミックス) [コミック]

こやまけいこ
芳文社
2014-10-16


酒ケーキもいいんだけど、せんべいの方がもっといいよ獺祭。

旭酒造 獺祭 煎餅 だっさい せんべい 山田錦の砕米で作りました 30枚入り
旭酒造 獺祭 煎餅 だっさい せんべい 山田錦の砕米で作りました 30枚入り [その他]
旭酒造


世界13種のカワウソが網羅されているすばらしい入門書が出ました。写真もいっぱい!

Otters of the World
Otters of the World


ハンザのぬいぐるみが各種、買えるようになってますよ。
カワウソ No.3320
カワウソ No.3320 [おもちゃ&ホビー]


フィギュアはシュライヒが造りがいいですね(なぜか最近すごい値段になってる!)。
Schleich シュライヒ カワウソ
Schleich シュライヒ カワウソ


かわうそ3きょうだい そらをゆく (にじいろえほん)
かわうそ3きょうだい そらをゆく (にじいろえほん)


かわうそ3きょうだいのふゆのあさ (えほんひろば)
かわうそ3きょうだいのふゆのあさ (えほんひろば)


かわうそ3きょうだい (えほんひろば)
かわうそ3きょうだい (えほんひろば)


空がレースにみえるとき (ほるぷ海外秀作絵本)
空がレースにみえるとき (ほるぷ海外秀作絵本)


ぼく、およげないの
ぼく、およげないの


ニホンカワウソ―絶滅に学ぶ保全生物学
ニホンカワウソ―絶滅に学ぶ保全生物学


Otter (Animal)
Otter (Animal)


Otters: Ecology, Behaviour And Conservation (Oxford Biology)
Otters: Ecology, Behaviour And Conservation (Oxford Biology)


カワウソと暮らす (富山房百科文庫 (34))
カワウソと暮らす (富山房百科文庫 (34))


The Ring of Bright Water Trilogy: Ring of Bright Water, The Rocks Remain, Raven Seek Thy Brother
The Ring of Bright Water Trilogy: Ring of Bright Water, The Rocks Remain, Raven Seek Thy Brother


椋鳩十全集〈20〉カワウソの海
椋鳩十全集〈20〉カワウソの海


ガンバとカワウソの冒険 (岩波少年文庫)
ガンバとカワウソの冒険 (岩波少年文庫)


河合雅雄の動物記〈2〉カワウソ流氷の旅
河合雅雄の動物記〈2〉カワウソ流氷の旅

・・・
わたしの本も、ついでにいかがでしょう?


カワウソ

おそらく日本初の、カワウソだけ写真集


ドボク・サミット
ドボク・サミット

みんなで作ったドボク本



恋する水門―FLOODGATES

一家に一冊!世界初の水門写真集


Das Otterhaus 【カワウソ舎】