Das Otterhaus 【カワウソ舎】

生きることは、見ること。写真作家・佐藤淳一が動物園水族館と生息地を訪ねます。カワウソがいてもいなくてもひたすら訪ねます。

水門の工場 その4

ダム用の高圧ゲートはかっこいい。飛行機で言ったら、戦闘機みたいなものだろう。でも旅客機、輸送機だって好きだ。このシェル構造ローラーゲートは、そういう雰囲気である。材質もステンレスじゃなくて、一般の鋼材(SS)だし。

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しかし、こうしてみると水門ってひとつひとつ、手作りなんだよね。まあ船だってボイラだってみんなそうなんだけど、何となくこうやってひとつづつ作られているのを見ると、いとおしくなるよ。


さて、これは何だと思う?

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上のギアには、これ(ラック)が組み合わさるのだ。ラックはステンレスで、丸棒が一本一本、実にていねいに溶接されている。これだけでもかなりの存在感。ちょっと現代彫刻っぽい。

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そして、これがラックのカバー。
後ろに見えるハンドルがついた機械が、さっき上から覗いたもの。

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たとえば完成品はこんな感じになる。手持ちのテキトーな写真(メーカーとか不明)で申し訳ない。

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でかいローラーゲートはほとんどがワイヤーで開閉するのだが、このような小規模なゲートでは、しばしば「ラック式開閉機」が使われる。このラック式開閉機は豊国工業の昔からの十八番なのだ。というかラック式はもともと豊国工業が開発した。

色だってほら、いろいろ。これはフェラーリのOEMだ(ウソ)。

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ラック式開閉機は、ネジでぐるぐる回す原始的なやつ(スピンドル式)に比べて、大きなメリットがある。それは「自重降下」が可能であるということ。スピンドル式はモーターなり手動なりでとにかく回さないことにはゲートを閉じられないけど、ラック式はブレーキを弱めれば、ゲートは自重で閉じるのだ。

用途にもよるが、とにかく閉まる必要のあるときに閉まらない、というのが水門としては最も恥ずべき失敗なのだ。そうか、


 水 門 の 究 極 の 目 的 は、

 閉 め る こ と で あ る。


今、思いついた。わたしもこの道、長くなってきたので、そろそろこういう意味あり気なセリフを吐いてみたいと思っていたところだ。色紙とか短冊とか来たらこれ書くよ。

色紙はどうでもいいんだが、今、この「自重降下」ってのが開閉機のトレンドらしいです。災害時に電気が来なくても、ゲートを下ろすことができる水門が、イケてる水門だ、ということだと思う。

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で、これがそんなニーズに対応した最新の開閉機器だ。右からモーター、手動切替器、ブレーキ、緊急降下用の減速機。この左にワイヤーのドラムが付きます。あ、写真ブレてるけど気にしないように。

ちなみに減速機は、油圧とかじゃなくて、何やら空気抵抗を利用するらしい。そんなもんで減速できるのか。

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手動切替器のアップ。この開閉機は中規模の水門用だと思う。手動に切り替えたとして、いったい何時間ハンドル回したら巻き上げられるのか。考えただけでも腕がぱんぱんになりそうだ。実はそんなことはどうでもよくて、色がかわいいので載せてみました。

・・・

これにて工場見学レポートはおしまい。社長はじめ豊国工業のみなさん、どうもありがとう! これを見た水門&ダムファンが大勢、見学に押し寄せるかもしれないので、どうかよろしく頼みますよ。

おお、応接室にこんなステキな本が!
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水門の工場 その3

すっかりステンレスにやられてしまった。んもうステンレスずるいぞ。キミは文句なしにかっこいい。でも最大の欠点は塗装ができないことだよなあ・・・などと倒錯したことを考えつつ、次に目前に展開したのは想像を絶するようなステンレスワールドだった。

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「ジェットフローゲート」という、ダムの堤体内に仕込まれるバルブのようなゲートのような装置の部品だ。言われないと水門の仲間とは思えないよね。すでにわれわれは、そういうディープなドボクの世界に入り込んでいるのだ。はたしてみんな、ついてこれてるのかな。

ジェットフローゲートは高圧スライドゲートの一種で、たいていダムの底に近い方から放流する用途に使われるため、とんでもない高い水圧がかかる。だからしっかり丈夫に作る必要がある。

たしかに、これ以上しっかりできないほど、いたるところを過剰にしっかり作ってある感じだ。

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ダムの高圧ゲートの世界では、河川ゲートみたいにゴムで水漏れを押さえたりするような、悠長なことはやらない。合わせ面をつるんつるんに磨き出して、金属同士のタッチで止水するんである。だからもうつるんつるん。ここはちょっとでも水が漏れると全くシャレにならない。ダムには「暮らし安心クラシアン」とかないからね。あればあったで、ダムのトラブル8000万♪とか歌うのだろうか。

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で、ここでまたびっくり。何とここでもステンレス板同士を突き合わせて溶接してあるというのである。

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溶接プロキターーーー、という感じで溶接職人のみなさま登場。こでは厚さ100ミリのステンレス板を、つないでました。

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え?100ミリ?

厚さ100ミリっていったい何ミリだ!という感じかと思う。何気なしに読んだだけではおそらくぜんぜん実感がわかないだろう。電話帳がだいたい40ミリで、そんなんじゃぜんぜん足らないね。広辞苑の箱まで含めた厚さがちょうど100ミリだった。広辞苑の厚さのステンレス板、これでどうだ! そんなゴージャスな鉄板がこの世の中に存在していたとは・・・まったくもってうかつだった。

昨日見てもらった箕島漁港水門と同じように、端部をV字型にカットして溶接で盛っていくのだが、100ミリを埋めるには、何と70層も盛るんだそうだ。気絶しそうな作業だ。さっきの溶接プロたち、途中で気が変になったりしないのかが心配。


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で、外に出るとこんなのがころがっているんだけど、これってさっきのジェットフローゲートにつながる管路ですかね? もう頭がおなかいっぱいになってて、聞きそびれた。ちなみに直径は2700ミリです。うちより天井、高い! はっきり言ってこの中に住めるね。

次回は、もっとのんびりしたやつを。

水門の工場 その2

では、さっそく水門工場の中へ!

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いきなり登場したのは、「森吉山ダム」向けの取水設備、直線多段式ゲートだ。このローラーゲートを4段、積み重ねて使う。ダムの水位に応じて表層の温水を取水するという、ダムファンにはおなじみのゲート。幅は何と7メートルもある。削り出され、溶接され、磨き出されたステンレスのかたまり。モノとしての存在感がありすぎてこわいほど。いったい1枚いくらするのか。

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もちろんローラーもステンレス製で、かなりの美しさ。こんなきれいな物体が完成するとダムの底の方に沈んでしまうというのも、なんか惜しい気がする。あ、これは堤体の中に仕込むわけじゃないので、まだ見える方ですか。

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ワイヤーが通る、いわゆる滑車だが、これもステンレス製の鋳物。もうこれでもかこれでもかとオールステンレスな展開で、嫌味なほど。軸受けのオイルレスメタルの柄が水玉で、ほとんど草間彌生である。あるいは実は下着は派手なの、みたいな感じもするな。

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これがその「森吉山ダム」にくっつく戸溝。長さ40メートル。簡単に言うけどみなさん40メートルのものをまっすぐに作れますか。電車2両分だよ。わたしは無理だね。絶対に曲がる。横倒しになっているうちに、いちど流しそうめんでも流してみたい。40メートルというのはそれほどの長さだ。もちろんこれもステンレス。

そしてまたひとつ、別のローラーゲートが。

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これは「箕島漁港水門」のゲートだそうだ。もちろんオールステンレス。今、水門業界ではステンレスが流行っているのか。漁港といったら一も二もなくステンレス、なのか。

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ローラーがまた極太。ヤンキー車のタイヤのごとく太い。もちろん中身の詰まったハードボイルドなステンレスのかたまり。こんなとんでもないもの回して、いったい何をたくらんでおるのか箕島漁港。もしチベット仏教のマニ車だったら、ひと回しで3億回ぐらいお経を読んだことになりそうなほどの御利益感。よくわからない例えですまん。

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箕島漁港水門の大きさは幅20メートル、高さ7.1メートル。そんなものトラックに積んで運ぶとなると広島和歌山間全面通行止めである。それも困るので、分割して作ったゲートを現地で溶接してつなぎ合わせるのだ。この斜めにカットしてあるところが溶接ポイント。ボルトで仮止めしてあるのが見える。こんなもん溶接でつなぐんだから、日本の職人の人たちってほんとにすごいと思う。WBCとかやってないで、ワールド溶接クラシックとかやればいいのに。そっちの方をわたしは見たいぞ。

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雨に濡れる屋上、じゃないよ。箕島漁港水門のゲートの表面(スキンプレート)を撮ったものだ。広すぎてほとんど何を撮ったものやらわかんなくなってる。表面の仮接続用のプレートや、吊込み用の金具なんかは、最後に削り落とすのだそうだ。なんかもったいないけど、もらっても困る大きさである。

次はもっとすごいステンレスの怪物が出るよ。

おやすみ前にこの一冊・・・
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Junichi SATO

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[佐藤淳一]1963年生まれ。土木構造物と動物という、かけ離れた領域を行き来するあまり類を見ない写真作家。上の写真はベルリン地下鉄の駅の壁に貼ってあった「ハンケンスビュッテルかわうそセンター」のポスターを撮ったもの(2005年)。意図せず自分も写り込んでしまったので、公式セルフポートレートに認定。光学的にカワウソと一体化しています。

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