Das Otterhaus 【カワウソ舎】

生きることは、見ること。写真作家・佐藤淳一が動物園水族館と生息地を訪ねます。カワウソがいてもいなくてもひたすら訪ねます。

誰も行かないような石狩川の頭首工めぐり4

石狩川愛別頭首工の5キロ上流には、愛別頭首工があって、そのまた4キロ上流には中愛別頭首工がある。ところでこの話、ついて来れてる人はいるのだろうか。自分でもそろそろ潮時かとは思っているのだが、あともうひとつ、あともうひとつと思いながらここまで来てしまった。わかっちゃいるけどやめられない。人間心理のなかなか深いところを執拗に突いて来るのか石狩川の頭首工。ついに感動の最終回。

実はこのまま石狩川を遡って行くと、最後には大雪ダムが現れることになっている。しかしこのように川の中途半端なところをうろうろしていると、ダムってずーと上流のほとんど天国みたいな位置に鎮座してて、ありがたくもそこからはるばる水が流れてきて、それであらゆる人間の営みが回りはじめる、みたいな気分になってくる。だからダムめぐりをしている人たちって、天国めぐりをしているようなものであって、うらやましい。その一方で俗世の泥にまみれて頭首工めぐりをしている自分は何だか情けない人みたいだ。こういうのをカルマって言うのだろうか。前世の所業が今世の萌え対象を決定するのだ。前世でいったい何をやっていたのか自分。

・・・

何でこんなところで前世など気にしているかというと、雨の降る中、道に迷っているからである。さっきからひとり堤防上を走っていた、と思ってください。

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写真で見ると北海道の素敵な道。


すると、この素敵な道は突然、消えてなくなります。


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河川の堤防が、どうして鉄道線路にぶつかって終わりになるのか、全く理解できないんだけど、とにかくそうなってる。当然、先には進めない。正式な道ではないから何があっても文句は言えない。Your own riskというやつだ。さすがは北海道、やることがアメリカっぽい。アメリカ行ったことないけど。


ものすごく迂回してまた石狩川に接近し・・・

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ふたたび堤防を見つけて走る。石狩川でも「いしかりがわ」でもなくて「いしかり川」なんだけど。こまけえこたぁいいんだよ、なのか。

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見つめているとゲシュタルト崩壊を起こしそう。


見てのとおり堤防上は未舗装だが、下の河川敷には舗装された立派な自転車専用道がある。もちろん誰も走ってはいない。いろいろと謎が多い土地柄だ。

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このあたりで、ついに水のざーざー音を聞きつける。水がざーざー言っているということは、堰があるということである。めざす愛別頭首工に違いない。頭首工へのアプローチの小道らしきものを見つけたが、草と潅木が深すぎて入り込めない。いよいよ本気でクマ危険地帯なので、軽々しく突破するわけにもいくまい。

よーく地図を見ると、愛別頭首工と石北本線の鉄橋が並行していることに気がついた。よくぞこの位置に鉄橋を架けておいてくれたもんだ。というわけでやっと姿を見ることができた。愛別頭首工へお越しの際は、車より石北本線の方が便利と思う(ただし、付近に駅はない)。



愛別頭首工。
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写真をクリックすると、Panoramio上のわたしの写真に飛びます。

写真クリックでPanoramioに行きます。大きな写真と位置情報あり。


続いて4キロ上流の次の中愛別頭首工を探す。こちらも負けず劣らず分かりにくいところにあるが、農家の私道みたいな道を通って順調にアプローチを続けていたところ・・・

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何かいる。

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もちろん野生。オレの次は黒くて丸いやつだ。


この先、何とかざーざー音のするポイントまでは何とか行けたものの、よいよブッシュが深くてどうやっても姿を拝むことができなかった。残念である。天気も悪いしもう夕方だし、今回はここで引き返すことにする。ゴールの大雪ダムなんか、ここからまだ45キロも遡らなければいけない。大雪ダム、天国なみに遠いぞと思った。


ここまで来た記念に、付近の北電の鉄塔でも撮っておく。

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昭和64年3月て・・・

誰も行かないような石狩川の頭首工めぐり3

どうも昔から動画というものが苦手で、頭首工めぐりなんか動画の方がぜんぜんいいんじゃないか、と思うのだけどやれてない。頭首工は必要とされる視野がパノラマだし、ダムの放水より規模は小さいが、常時ごぅごぅと水の落下音なんかもするし、どう考えても動画の方が有利だ。このへんでちょっと考え直した方がいいな。

前回の大雪頭首工から、さらに2.8キロ上流に来た。これ以上先はすっかりクマーの世界かと思ってたらぜんぜん違ってて、ちゃんと田畑があって市街地もある。大変に失礼しました。やはり北海道って奥が深いですな。


石狩川愛別頭首工。
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写真をクリックすると、Panoramio上のわたしの写真に飛びます。

位置情報と大きな写真は、毎度ながら写真をクリックしてPanoramioから見てね。


言わなくてもわかると思うが、平成19年度竣工なので新しい。旧頭首工はここから500メートル下流にあったが、すでに撤去済み。その撤去工事のプロセスがちゃんと論文化され、公開されている。「アンカー式土留め工法」に興味のある方はどうぞ。


[PDF] 石狩川愛別頭首工の旧取水口撤去 及び閉塞工事について


前回、寒色系の色に塗ったりしたら吹雪で見えなくなってアウトだ、とか書いたが、ここがまるっきりそれだった。おまけに上流側の堰柱に付けられている警戒色も省略されている。頭首工の色に対する考え方が、180度変化していることがよくわかる例になっている。「自然環境等との調和への配慮」は魚道設置だけでは評価されないのだろうか。視覚的に施設の存在を消す方向へ向かわないと、環境に配慮したことにならないのか。いつも思うのだけど、そういう考え方って、いったいどこから来ているのかな。

だいたいそういう議論をするときの環境って何なのか。人間が作った構造物まで含めての環境ではないのか。特定の色が突出してよくないのは広告看板の話であって、その評価軸を防災系の構造物に適用することはないと思う。

新しい石狩川愛別頭首工は純粋な利水施設ではないのか、とツッこまれるかもしれないが、実はそんな単純な話ではない。「国営総合農地防災事業」という予算で作られているので、半分は防災施設ということになっている。旧頭首工がボロくなったというより、堰の洪水流下能力が不足したために計画されたのだそうだ。

でも待てよ。それって可動堰が「洪水時に邪魔にならない性能」を上げるためであって、可動堰そのものが積極的に防災に寄与するわけじゃないよね。そういうのも積極的に防災って言っていいのかな。

よくわからなくなってきた。

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まあソバでもどうぞ。

誰も行かないような石狩川の頭首工めぐり2

頭首工めぐりの話は地味になるだろうな、と思ってけど、やはりその通りになっている。これを機に、今後はもっと地味に生きようかなどとよくわからないことを考えて次の頭首工へ向かう。天気もきわめて地味で、時おり雨が強くなるので、基本的にやってられない感じだ。

9キロ上流にある大雪頭首工は、地形的に大きな特徴はないところだが、JR石北本線がすぐそばを通っているため、割と簡単に見つかった。ひろびろとしたサイトは手入れも行き届いて明るい雰囲気。ちょうど雨が止んでくれたので早速、撮影させてもらうことに。

大雪頭首工。
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写真をクリックすると、Panoramio上のわたしの写真に飛びます。

位置情報と大きな写真は、毎度ながら写真をクリックしてPanoramioから見てね。以下同様。

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昭和46年竣工だから30代後半である。70年代特有のすっきりした構造物だなと思ったが、よく見ると堰柱のコンクリートは新しい。後年補強したものだろうか。

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上屋もないけど開閉機器にはカバーがかけられている。あらゆる金属部がオレンジ色に塗られており、雪景色の中で見たらひときわ映えるに違いない。でも寒いのはイヤだ。このあたりは冬はマイナス30度とかだろう。わたしは夏生まれなので、そういう温度域は仕様外だ。

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まあとにかくこの豪快な塗りっぷりを見てほしい。どうせ人が来ないところだから景観配慮の色彩計画とか、そういう面倒なことは抜きにして今日は無礼講だ、と言いたい。

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そういえば今思い出したけど南極観測船もオレンジ色である。やはり氷雪系の苛酷な環境では、この容赦なくド派手なオレンジ色に、機能的な強い意味が込められてしまうに違いない。こじゃれて都会的センスな寒色系の色など塗ってしまうと、きっと吹雪の中では見えなくなってしまってあっという間に役立たずだ。

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ペンキ飛び散ってる。やっぱり豪快。


そして、管理棟がこんなだ。まさに60〜70年代のエスプリの効いたモダニズム建築というか丸くてかわいい。エスプリって何だ。

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現役の百葉箱をひさしぶりに見たような気がする。


これ撮ってたら、近所の人なのか管理の人なのか、車で現れたのでご挨拶。スズメバチの巣があるから気をつけなさいとのこと。ここはクマは出まいと思って安心し切ってたら、別の方面から危険が迫っていたわけだ。んもう、全く気が抜けないじゃないか石狩川上流っ。

でも、ここはとてもいいところだ。すごく気に入った。北海道の頭首工ベストテンをやったら確実にランクインだろう。去りがたい風景をもう1枚。こういうすっきりした、必要最低限みたいな量感の構造物は、もう今後、作られないんじゃないだろうか。

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これも大きくなりますよ。

また雨が降ってきた。とりあえず次の頭首工へ向かおう。


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銘板がなかったので表札ですよ。


# 大雪を「たいせつ」と読むのか「だいせつ」と読むのか悩むところだが、JAがひらがなで「たいせつ」と名乗っているので「たいせつとうしゅこう」ということにしておきます。違ってたら誰か教えてください。

おやすみ前にこの一冊・・・
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「カワウソなび」の最新情報はこちらをどうぞ↓


Where captive otters live in Japan.

 Otter holding facilities in Japan

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Junichi SATO

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[佐藤淳一]1963年生まれ。土木構造物と動物という、かけ離れた領域を行き来するあまり類を見ない写真作家。上の写真はベルリン地下鉄の駅の壁に貼ってあった「ハンケンスビュッテルかわうそセンター」のポスターを撮ったもの(2005年)。意図せず自分も写り込んでしまったので、公式セルフポートレートに認定。光学的にカワウソと一体化しています。

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